むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

「傑作!」を連発するレビューブログを目指しています。コメントは記事ページから書込・閲覧頂けます。

Falaise / After All This Time


Falaise / After All This Time



イタリアのポストブラックメタルによる4作目フルレングス。



シューゲイザーのフィードバックノイズにも似たトレモロの轟音、ピアノの凛とした音色、甘やかでメランコリックなメロディーの清涼感を聴かせるブラックゲイズです。
ラジオフレンドリーな甘さだけでなく、荒ぶる疾走感や絶望しきった絶叫といった、ブラックメタルとしての暴虐性もしっかり織り込むスタイルは健在。
基本的には前作の延長線上で、清廉な鳴りの甘美な作品となっています。コロナ禍を経て、若干の感情的な揺り戻しがあったのか、前作よりもブラックメタルの体裁は保たれている印象。
Voのデプレッションを吐き散らかすような絶叫も甘さに溶け込んでおり、さらに幽玄さを増す役割を担っていますね。
ピアノの涼やかなリフレインとざらついたトレモロの波状が押し寄せる波音のようなリラクシングな空気を放射するM-1「A Dream of Relief」からして、Falaiseの世界観に取り込まれるでしょう。
少し重たいチューニングのリフが柔らかなメロディーを紡ぐ疾走パートとこの世のものとは思えない美しい静寂のコンビネーションが聴く者を包み込むM-2「Keeping You in My Memory」、微睡むようなトレモロの残響と力強く踏みしめるような歩調のドラムが混ざり合うブラックゲイズ「One Day」の3曲でも、すでにFalaiseの世界はいささかもぶれていません。
ファンタジックな音像ですが、歌っていることはほんの寄る辺ない独白のような言葉であることも変わりません。
崇高さを感じるトレモロの甘やかさと絶望しきったような叫びがポストロックに連なるダイナミックな展開に飲み込まれていくM-4「Flow of Time」、繊細な筆致で描くギターフレーズと幾重にも重なっていくノイズの奔流が美しい大河を思わせるようなM-5「Feeling Out of Place」、ノイズを這わせてざらついたトーンのピアノから一気呵成と暴虐的なドラムに雪崩れ込む様が終幕に相応しいM-6「Fading」と、4年待っただけある圧巻の美しい世界を堪能できます。
このFalaise、前述の通り美しいだけではなく、デプレッシヴブラックメタルから吸い上げた絶望や悲哀、孤独といったキーワードも生きているので、その二面性も楽しめるアルバムです。
イタリアのブラックゲイズの覇者とも言える彼らの手抜かりない美麗な傑作です。
ブラックゲイズも様々なバンドがひしめく中、ここまで基本形に忠実で、それでいてレトロな雰囲気を感じさせない手腕は見事。
FuathやSojournerなども手掛けている新進気鋭のイラストレーターでもあるJoan Llopis Doménechの、ダイヤリーのようなカバーアートも素晴らしいですね。




1. A Dream of Relief
2. Keeping You in My Memory
3. One Day
4. Flow of Time
5. Feeling Out of Place ★
6. Fading
(2023/Flowing Downward)
Time/44:36


Score:9.4/10


www.youtube.com