むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Eye Of Nix / Ligeia

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Eye Of Nix / Ligeia


USのドゥーム/ポストブラックメタルバンドによる3作目フルレングス。


深く暗いドゥームの重たさが複雑に入り組み、悲壮的なトレモロが荒れ狂う作品です。
ポストメタルにも通じる透明度と神秘的な音響の中を、シャーマニックで美しいVoがたゆたい、時に悲痛な絶叫を響かせる様はポストブラックというよりはディプレッシヴブラックとも言えます。
また、Voの特質上Rise Aboveレーベルにいる魔女ドゥーム的な味わい深さもありますが、真正ドゥームのBlack Sabbath由来の黒々として艶やかな重たさは希薄な印象を受けました。
トレモロ絶対零度の冷たさと共に、非常にざらついた質感の音なのですね。
ゆっくり首をもたげる不穏で邪悪なM-1“Concealing Waters”からして静と動の切替のダイナミズムが効いています。
妖しく美しい声が反復するリズムと荒れるトレモロの上で伸びやかに伸びるM-2“Pursued”、冷たく吹き荒ぶ吹雪に神秘的なキーボードが絡みつく表題通り嵐のようなM-3“Tempest”、一転して穏やかかつ暗いギターにダークアンビエントを噛ませてノイズと共に血反吐を吐くデスメタルに雪崩れるM-4“Stranded”、短い走行時間内に衝動をノイズとぶちまけるM-5“Keres”、儚く浮遊するギターに揺られつつブラストが牽引していくポストブラックM-6“Ligeia”と、中盤が過ぎるまで起伏に富みながらも息も吐かせない展開が美味。
ビートを消して神秘的で暗い音像を小波のように歌が漂う美しいM-7“Adrift”でえも言われぬ雰囲気を織り上げて、重く悲壮的なメロディーがゆったりと地を這い邪悪でおぞましい儀式に結実するM-8“Stone And Fury”と最後まで気の抜けない作品に仕上がっています。
複雑怪奇に展開していきますが決して奇をてらった印象がないのは、軸となるメロディーが非常に美しく芯を伴っているからだと思われます。
VoであるJoy Von Spain氏の伸びやかで時に邪悪さもある魔女的な歌が支配的なのもいいです。
彼女の朗々としたオペラティックかつシャーマニックなクリーンも素晴らしいですが、怨嗟を滲ませた老婆が如きしゃがれ声や、憎悪を孕んだグリムボイス、そこに絡むグロウルの厳つさと、様々な“声”の仕掛けがそこかしこに仕掛けられているのも素晴らしいです。
“ポスト”と称される世界観の深淵を覗かせるに相応しい深遠たる音が圧巻の傑作ですね。



1. Concealing Waters
2. Pursued
3. Tempest ★
4. Stranded
5. Keres
6. Ligeia
7. Adrift
8. Stone And Fury
(2020/Prophecy)
Time/45:55


Score:9.4/10