むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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2023年間ベスト41枚


今年もこの季節ですね。
去年と同じく、このレイアウト画像を作りたくて41枚です。
では、お楽しみください。




Algiers - Shock
[Post Punk]


冷徹な政治的な視点を、鋭利なビートメイク、心の襞を逆撫でするようなギターで叫び、叩きつけるポストパンクは不変。
シリアスな主張に揺らぎはなく、堂々たる威容を見せつける。
Zack de la Rochaを招いた「Irreversible Damage」における電子ビートの斬りつける切迫感で身悶えさせたかと思えば、Backxwashやbilly woodsと共に官能的なサイケデリアにリスナーを引きずり込む。
作品の全体像は黒く、渦巻くような冷気に満ちているが、時折産みの喜びのようなポジティヴな感情をも押し寄せる。呪術的な筆致のヴォーカルも冴え渡っているのも喜ばしい。
ストパンクとR&B、ヒップホップ、インダストリアルに至るまでを縦断した圧巻の音像にショックを受ける一枚。
Algiers- "Irreversible Damage (ft. Zack De La Rocha)" (Visualizer) - YouTube




Amun - Spectra And Obsession
[Experimental-Black Metal]


もう解散してしまったようだが、オハイオ州ワージントン出身の5人組による本作は6曲100分を超える大作である。
本作の特筆すべき点は、バグラマやディジュリドゥといった民族楽器も操る中心人物Joe Snodgrassの才気もさることながら、ボリューミーで過剰な演奏を支えるバンドの力量もかなりのものだということだ。
ハーシュノイズやドローンを巧みに駆使し、宇宙的な広がりを与えるアトモスフェリックブラックの側面もあるし、クワイアを意識したパートを織り込むことで90年代シンフォニックブラックへの目配せも手抜かりない。
催眠を誘発するマントラのようなグルーヴを強調したエレクトロもある。
が、どの曲であっても、凶悪にエッジの立ったブラックメタルの表情は崩さない。
電子ノイズを織り込んだアグレッシヴなパートも親しみやすく、必ずキャッチーなフックを織り込んでいる。
独特の澄んだ音像は、近年のKrallice、はたまたLimbonic ArtやArctrusの深淵に連なるようでもある。
ベーシックなブラックメタルだった初期とは、ずいぶんと遠くに来たものだと感慨深い。
あらゆる事象を飲み込むブラックホールのような深みに引きずり込まれるような一枚。
Spectra And Obsession - YouTube




・...and Oceans - As in Gardens, So in Tombs
[Symphonic Black Metal]


インダストリアルブラックからシンフォニック〜メロディックブラックの真髄に触れていた前作の変化から、本作はさらにシンフォニック〜ポストブラックに移行している印象を受ける。
ただし、インダストリアルブラック路線で培った電子的意匠も全て含まれた集大成に近い。
前作のメロブラ的なアグレッションも残っている。つまり、強固な演奏による強靭なアグレッションも担保されていて小難しくない。
華やかだが儚さを強調したメロディーラインはポストブラックの視座をも含まれており、彼らの目指すブラックメタルが、ある意味でブラックメタルそのものの包括的なニュアンスを含んでいることが伺える。
とは言っても、全体的には絢爛豪華でリスナーを快楽に引き込むシンフォニックな音使いのため、親しみやすさが後押しする一枚。
...AND OCEANS - 'Within Fire and Crystal' (official music video) 2022 - YouTube




・Azaghal - Alttarimme on luista tehty
[Black Metal]

フィニッシュブラックの古豪Azaghalの、ヴォーカルが交代して初となる5年振りの新譜。
ヴォーカル交代の変化は予想以上に大きく、神秘的な佇まいだった近作と打って変わって、粗野で蛮性漲るストレートな作風だ。豪快で力強く分厚い音像の影響で、ブラックロールやデスメタルにも接近している印象である。
とは言っても、ざらついたトレモロによる冷たく邪悪なメロディーはブラックメタルそのもの。
幻想的な雰囲気を漂わせるフレーズを織り交ぜる「Kultti」のアンセミックな筆致はたまらない。
新任者の強烈に吐き捨てるヴォーカルの迫力も素晴らしい。
Narqathの視座は以前と変わらないようで、ますますの風格を感じる一枚。
Azaghal - Alttarini on Luista Tehty (Official Music Video) - YouTube




Baroness - Stone
[Progressive Sludge Metal/Progressive Rock]


前作までの色をテーマにした世界観は終わり、本作はまた異なる視点から音を構築している。
プログレッシヴメタル〜ストーナーの骨格はそこまで大きな変化はないが、本作はとにかくプロダクションが良い。
リッチでクリアな音像は、メタルならではの重厚感だけでなく、普遍的なロックアルバム特有のキャッチーさを炙り出すことに成功した。
帯には「難解なアートメタル」とあるが、本作に一聴しての難解さ、取っつきづらさは皆無だ。
とても叙情的で牧歌的ですらある曲もある。ストーナー/ブルース/カントリーを縦断する、アメリカーナの広がりある美しさに燻し銀のヴォーカルがとにかく合う。
ポストロックとスラッジの交配点に立つような、激情と静謐の落差を生むグルーヴはますます冴えている。
呪術的なメロディーラインの妖しさをも美に取り込んだ、躍動感と活力溢れる一枚。
BARONESS - Last Word [Official Music Video] - YouTube




・Blood Command - World Domination
[Deathpop/Emo/Skramz]


本作は大胆不敵な傑作だ。
ポップパンク/スクリーモの煌めきを詰め込んだ前作から短いスパンで届けられた新作は、より自由な発想で、枷を外したかのような目まぐるしく驚きに満ちた作品に仕上がっている。
爆発的なスピードと勢いで駆け抜ける、元々の信条は健在だ。アディダスで固めたステージ衣装(私服?)も変わらない。
だが本作は、よりエネルギーに満ち溢れており、「The Plague On Both Your Houses」のように、自らの出身地の一大サブジャンルであるブラックメタルをポップパンクに組み込む大胆さもある。
EDMやトラップを注入したような自由さもある。ヒステリックで、血管をぶち破り喉を傷つけるような絶唱を響かすNikki Brumenの佇まいもますます冴え渡って、どんどん風格を増している。
Yngve Andersenのギターは、彼女に引っ張られるように溌剌になっているのが印象的だ。
バンド内の風通しの良さが大いに伝わる一枚。
Blood Command - The Plague On Both Your Houses (Official Video) - YouTube




BUCK-TICK - 異空-IZORA-
[Rock]


コロナ禍の只中であった前作は、どこか祝祭と歓喜で歓びを忘れぬように教えてくれた作品だった。
本作は、昨今の世界情勢を色濃く反映した、戦禍を見届けろというような厳しさを感じる。
シリアスな作風ではあるが、元来のBUCK-TICKの冷徹な視点がしっかり刻印しているのも印象的だ。
本作は絶対的なフロントマン櫻井敦司の遺作となってしまったが、彼の存在感はなお健在だ。
英雄を迎えに来るワルキューレすら引き連れる魔王の生命力を感じる。
彼の妖艶な歌声を引き立てるフリーキーで耽美なギターも、郷愁を呼び込むメランコリーが奇しくも際立っている。
独特の浮遊感を湛えるプロダクションも極まっているし、BUCK-TICKというバンドの孤高さはいささかも揺るぎない。
世界はこんなにも残酷で狂気で溢れているのに、寄り添う歌声がそっと包みこんでくれる優しい一枚。
BUCK-TICK 「太陽とイカロス」 MUSIC VIDEO - YouTube




・Dead and Dripping - Blackened Cerebral Rifts
[Slamming Brutal Death Metal]

本作は興味深い融合をしていて、スラムデスをオールドスクールデスメタルのような質感で表現している。
グロウルよりガテラル、ピッグスクイールの頻度も高く、スラミングをそこかしこに仕込む。
だが、グルーヴに負けずメロディーは芳醇だし、暗黒的な雰囲気も色濃い。SICKで猟奇的な音像もきっちりある。
リズムを捻りまくったドラムで切迫感を付与する展開は、Disgorge、あるいはSuffocationのようでもある。
独特の缶をぶっ叩くような音の速いテンポのドラムはまさしくスラムデスだ。
プロダクションはあくまで湿度が高いのも嬉しいところ。
昨今のトレンドだったコズミックなデスメタルとは似て非なるアプローチが堪能できる刺激的な一枚。
DEAD AND DRIPPING - Molecular Degradation Upon Warped Onyx Stoves (Brutal/Tech Death) - YouTube




・Downfall of Gaia - Silhouettes of Disgust
[Post Black Metal / Hardcore]

Dowfall of Gaiaといえば、クラストに根差したハードコアとブラックメタルを折衷し、アトモスフェリックブラックにも肉迫するスタイルというイメージがある。
本作は、無意識か意識的かは不明だが、コロナ禍を経ての苛立ちや孤独感というものを感じる行き急ぐ衝動が刻まれた作品になっている。つまり、ハードコアの性急さが全面に出ている。
とは言っても、彼ららしい霧に煙るような、神秘的なギターの残響を活かした美しい空間演出もしっかり健在だ。
ただ、なだらかに曲を展開していく、プログレッシヴでアトモスフェリックな彼らならではの構築は幾分控えめ。
これを残念と取るかは聴く者次第だ。怒号のようなドラムの切迫感も胸を衝く一枚。
Downfall of Gaia - Bodies as Driftwood (OFFICIAL VIDEO) - YouTube




・Extermination Dismemberment - Dehumanization Protocol
[Slamming Brutal Death Metal]

ベラルーシの暴君の新作は一皮剥けた感のある作品だ。
タイトル通り、無慈悲で冷徹な残虐の限りを尽くすスラムデスを展開していくのは不変。
だが、様々なエフェクトやサンプリングを駆使し、リズムにもフックを持たせることで、SFパニックホラー映画のフィルムスコアのような質感を与えることに成功している。
スラミングの凶悪さは随一で、銃声や爆撃音のサンプリングが一層残虐さに拍車をかけている。
前作より10年、世界の情勢は変わったが、戦争が消えることはない。
彼らのすぐそばにも侵攻があるし、銃声は身近だ。本作はそんな情勢が反映されているかは不明だが、倦怠や嫌悪を強く感じる。
そういったことを脇に置いても、人類が機械に駆逐される阿鼻叫喚に満ちた演奏が爽やかですらある一枚。
EXTERMINATION DISMEMBERMENT - EXTERMINATION FACTORY (OFFICIAL VISUALIZER) - YouTube




Fen - Monuments to Absence
[Post Black Metal]

コロナ禍におけるTRPGへの没入を経て、ライヴができないフラストレーションが爆発した作品だ。
つまり、Fenのアルバムにおいて最もブルータルであり、沸々と煮え滾るアグレッションが堪能できる。
このアグレッシヴでヘヴィな疾走感は、かつてメンバーが在籍していたSkaldic Curseを彷彿させるし、新たに加入したドラマーJGがもたらしたものでもあるだろう。
攻撃的な側面だけでなく、従来のシューゲイザー/ポストロックから吸い上げた淡く儚い叙情もしっかり息づいており、見事なコントラストになっている。カバーの白と赤の対比をそのままパッケージしたような印象だ。
この静と動、激走と静謐の共存は、Fenの持つプログレッシヴロックの感性と二面性を際立たせている。
ポストブラックメタルの先駆者たる矜持と技巧が研ぎ澄まされた一枚。
Fen - Scouring Ignorance [Official Music Video] - YouTube




・Full of Hell & Nothing - When No Birds Sang
[Hardcore/Shoegazer/Sludge/Post Metal/Matalgaze]

天国と地獄が共存する。
激烈なハードコアFull of Hellと、沈み込む美しいシューゲイザーNothingのコラボレーションはそんな作品である。
基盤のサウンドデザインはNothingに近いが、両者の従来イメージとも若干異なる。
シューゲイザーとダークなハードコアの単純な折衷というわけではなく、Full of Hellの持つスラッジ寄りの重厚な要素を表出させることで、地獄のような大地をよそに全てを浄化するギターノイズが降り注ぐ。そのため、メタルゲイズの様式が採用されている印象だ。
Voワークも、悪辣なハーシュヴォーカルとエンジェリックなクリーンヴォーカルが曲によって立ち位置を変えている。
聴く者の脳髄に侵食し、天に昇らせる一枚。
Full of Hell and Nothing - Spend The Grace (Official Video) - YouTube




・Godflesh - Purge
[Industrial Metal/Post Metal]

インダストリアルメタルの覇者の一つとして名高い彼らだが、実のところジャンルに拘泥せず、安々と越境してくる。
6年ぶりの新作である本作もそうで、機械的な無機質さは変わらずあるがグルーヴやリズムはヒップホップのそれで、絶妙なストリート感が特有の重苦しさにがっぷり組み付いている印象だ。
Godfleshの興味深い点は、無機質なグルーヴであっても、不思議と血の温かさを感じる、無機と有機が共存している点である。鉛色のトラックは催眠効果をもたらし、聴いているうちに酩酊しそうなほど。
怒号のようなJustin K. Broadrickのヴォーカルも痺れるほど厳つく、フロアを熱狂に叩き込む様が目に浮かぶよう。
本作自体はTechno AnimalやGreymachineを想起するが、まさしくGodfleshと断言できる作品だ。
未だ枯れない巨人の才気に惚れ惚れとする一枚。
Godflesh - NERO (music video) - YouTube




・hellix - Montage
[Thrash Metal]

焦燥感をひたすら煽り続け、偏執的な完成度を誇るカオスに翻弄される恐るべきアルバムだ。
Death、Voivod、Vektorといったバンドが過ぎる、インテレクチュアルスラッシュとデスメタルが絶妙なバランスで配合されている。
どの曲もドライヴ感が脈々と根を這っており、難解で怪奇な展開であっても小難しい感覚はない。
現在はソロで、サポートとして本作の完成を後押ししたようだ。「これをライヴで再現できるのか?」と聴く者は思うだろう。
それほどまで、細かい部分にまで狂気じみた拘りが徹底しているのが聴けばわかる。
「ドラマティック・スラッシュメタル」と標榜するだけあり、hellixのスタイルは勇壮さと劇的な展開で聴く者を魅了する驚きに満ちている。
そこかしこに狂気とストレスが顔を出すが、絶妙に気持ち良い快楽性の高い一枚。
Dada Construction - YouTube




・Imperium Dekadenz - Into Sorrow Evermore
[Post Black Metal/Atmospheric Black Metal]

エモーショナルなブラックメタルの極致である。
Imperium Dekadenzは、従来のメランコリックでアトモスフェリックなブラックメタルとしての表情と、冷徹さを本作に封じ込めた。基盤は前作から続くものだが、トレモロの哀感はここにきて極まった印象だ。
確かな推進力を与えるドラムの力強さは、過去とは比較にならない。
押し寄せる悲しみのトレモロピッキングと相俟って、ECMレーベルのカタログにも通じる凛としたプロダクションは、本作でも健在。この音像は、彼らの大きな武器になっている。
「Truth under Stars」「Aurora」と曲名が示すように、冷え切った冬の星空を見上げるようなスケール感も頼もしい。
動と静の巧みなスイッチも見事。
冷たい夜気に晒されたかじかむ手を吐く息で暖めながら聴きたくなる一枚。
IMPERIUM DEKADENZ - November Monument (Official Video) | Napalm Records - YouTube




・KANGA - Under Glass
[Industrial/Darkwave/Electro Pop]

妖艶な薄闇のエレクトロポップだった前作に続く本作は、カバーアートの通りにカラフルなポップアルバムだ。
ただ、インダストリアルとダークウェイヴを通過した彼女ならではの視座を反映したポップに仕上がっている。
GodfleshやSkinny Puppyともリンクする部分は本作では少し抑えられ、前作にあった攻撃的なノイズの切迫感はそこまでない。
アップリフティングなビート、美しいキーボード、時に重たいギター、澄んだヴォーカルが主軸の軽やかで華やかなスタイルは、彼女に合致しているのがわかる。
そのため、単純に美しいアルバムとなっていることに不満は抱かない。とは言っても、不意を突くようにひりつくノイズやハンマービートの名残が聴く者を掴んで離さない。
宙を漂うような美麗な歌声と享楽的な電子ノイズが微に入り細を穿つ一枚。
KANGA: "Magnolia" OFFICIAL VIDEO #ARTOFFACT #pop #darkwave #hyperpop #queen - YouTube




・Laibach - Sketches Of The Red Districts
[Industrial/Experimental]

Laibachはスロヴェニアの炭鉱町で結成した活動歴40年を超える伝説的なインダストリアルバンドである。出自もそうだし思想面や活動の歴史を紐解くだけでも相当に深いバンドだ。
本作は今なお先進性を喪わない野心的な作品に仕上がった。
初期の頃のような聴く者を篩にかける無愛想さこそないが、様々な電子音や工業音をちりばめた実験的なスタイルは変わらない。
それでもいくぶんマイルドになっており、インダストリアル/ダブやダークウェイヴのような、暗黒的なグルーヴを主軸にしている。プログレッシヴではなく、アヴァンギャルド。それ故、決して誰にでも親しめるというわけではない。
朗々と歌われるヴォーカルや、呪術的な女性コーラス、うめき声にも似た何かの音は、目を背けてはいけない歴史の闇を覗き込むようでもある。
軋むノイズがどこまでも切迫感を煽り続ける、殺伐とした重厚な一枚。
LAIBACH : GLÜCK AUF! (Sketches of the Red Districts) - YouTube




・Liturgy - 93696
[Post Black Metal/Transcendental Black Metal]

様々なギミックを駆使し、ブラックメタルを逸脱した超越的ブラックメタルというスタイルをさらに突き詰めたダブルアルバム。
ボーナストラックを含めると80分を超えるボリュームだが、本作はLiturgyのこれまでの集大成のような佇まいだ。デビュー作と同じタイトルを冠した曲であったり、そもそも表題が全ての作品で意味が繋がっているとするバンドコンセプトであったり、彼女たちの歴史を大いに感じる。
数秘術を用いた要素や、寸断されるビートのループ、Burst Beatとも言われる爆縮するようなドラムの過剰さは健在。
本作では体得して初めて使用するオペラ歌唱にも似たソプラノだったり、新味もある。
難解で実験的な音の奔流であったり世界観だったりがイメージとしてあるLiturgyだが、本作は意外にキャッチーな部分も多い。
長大さや過剰さに聴く者を翻弄する刺激に満ちた一枚。
93696 - YouTube




・Maladie - For We Are The Plague
[Avantgarde Progressive Black Metal]

ベルギーの鬼才Déhà擁するバンドの7作目(いつ作ったのだろうか)。
Bandcampのインフォメーションに記述がある通り、Danny Elfman(あるいはOingo Boingo)からの影響を全面に感じる奇想をブラックメタルに紐付けている手腕に脱帽する。
初期はともかく、前衛的な発想自体は散見できていたが、本作は難解さよりも、ある種スタジアム映えするキャッチーさすら体得している。それでいて、ブラックメタルの凶暴さや冷たさはいささかも揺らいでいない。
ストパンク、ハードコア、ロカビリー、カントリーと縦横無尽に様々なジャンルが駆け回り、デスコアですらも飲み込む圧巻の音像。ポストブラックメタルと共振しながらも、ポストエクストリームメタルと形容できるかもしれない。
カバーアートのインパクトある不気味な佇まいも含め、代替が見つからない、(彼らの言を借りれば)アヴァンギャルドプログレッシヴブラックメタルの大傑作たる一枚。
MALADIE - For We Are The Plague - YouTube




・Milanku - À l'aube
[Post Metal/Hardcore]

フランス語で「夜明け」を意味するモントリオールのポストメタル/ハードコアの新譜は、かつてシカゴ音響派の多くが辿ったような変遷を遂げている。
つまり、荒ぶる感情で荒涼とした音像から、テンポを落とし、腰を落ち着けた展開で思慮深く構築しているのだ。
これはBastroからTortoiseらと分かたれていた分岐とリンクするところがあるし、スタイルは異なるにせよNeurosisが変化していった道程とも似ている。
凛とした音響で、感情の一切を洗い流すような美しいギターメロディーや、重圧に押し潰されるようなスラッジの重厚さ、時に優しく漂うコーラスの全てが本作を構成している。大半がインストゥルメンタルだが、怒号の蛮性も機能的だ。
方法論としてはポストロックに近いが、メタル/ハードコアの剥き出しの攻撃性も、微かな残り香として機能している一枚。
Milanku - À l'aube; de leurs silences - YouTube




・Moonlight Sorcery - Horned Lord of the Thorned Castle
[Melodic Black Metal]

絢爛豪華。乾坤一擲を投じる、メロディックブラックメタルの傑作。
フィンランドのCatameniaからの影響を随所に感じるきらびやかでクリアな音像、ネオクラシカルを源流に持っていると容易に想像できる華やかなギターといった素養を全面に押し出している。
しかし、ブラックメタルアンダーグラウンドに根差すルーツはしっかり感じられる。
それは、フィンランドのHornaやSatanic Warmaster、Sergeistら偉大なる先達から脈々と受け継がれているフィニッシュメロウとでも形容できる、土着的な叙情だ。
そこに同郷の巨人Children of Bodomに通じる、乱舞するキーボードとトレモロのバトル的な掛け合い、美麗なギターソロの切り込みなど、キャッチーさに唸る味つけを施しているのが素晴らしい一枚。
Moonlight Sorcery - In Coldest Embrace (Official Music/Lyric Video) - YouTube




THE NOVEMBERS - The Novembers
[Rock]

光を放射するTHE SPELLBOUND、闇に吠え立てるPetit Brabanconと、目立つ課外活動では真逆のスタイルに軸足を移していた彼らの、久しぶりのアルバム。
前作『At The Beginning』では、耽美でダークな攻撃性を随所に感じさせたが、本作ではそうではない。
「誰も知らない」や「GAME」のように、ヘヴィでダークな表情もしっかり健在している。
だが、本作で聴けるのはロックバンドが持つ、輝けるしなやかな美しさだ。
そして、一人ひとりにそっと寄り添う優しさをこれまで以上に表出している。
作品を構成する10曲は各々に美しいが、それが集まることでアルバムとしての美しさが堪能できるのだ。
セルフタイトルなのも頷ける、THE NOVEMBERSは孤高であり、聴く者一人ひとりを抱擁する優しいロックバンドであることを表明している一枚。
The Novembers New Album 「The Novembers」digest - YouTube




・The Otals - U MUST BELIEVE IN GIRLFRIEND
[Alternative/Shoegaze/Rock/Pop]

カートゥーンシューゲイザー」とタグがつけられたこの覆面ユニットは、甘酸っぱく爽やかなシューゲイズポップを聴かせる。
メンバーによれば、The Pains of Being Pure at Heartからの影響を多分に受けているそうだが、Shiggy Jr辺りにも近い青春の甘い煌めきが封じ込められたド直球のギターポップもある。
男女混声の掛け合いが、より日常感を感じさせるのかもしれない。
もちろんそれだけではなく、少し重ためのビートが効いたビターな曲では若干内省的な歌を聴かせたり、とにかくカラフルだ。
本作自体は夏に最も合いそうなものだが、耳馴染みの良いメロディーは季節を選ばない。
全体的には疾走感に溢れていて、そっと添えられたネオアコ感も絶妙に嬉しい仕上がりの一枚。
【MV】and China Blue/The Otals (そしてチャイナブルー) - YouTube




・乙女絵画 -
[Rock/Pop]

70年代・80年代の日本のサイケデリックロックが根底に流れていることがまずわかる。
裸のラリーズ、Ghost、羅針盤といった先達の遺伝子が脈打っている作品だ。
そして、静から徐々に感情を爆発させる様は、Mogwaiやdeathcrash辺りを想起させる。
しかし、彼らの匠なところは、歌メロはあくまで歌謡的であるところだ。
静かに、妖しく、艶めかしく紡がれる言葉は、独特の言語感覚であり、若さと熟達さを大いに感じられる。
声質こそ全く違うが、なぜか櫻井敦司に通じる節回し。その言葉の強さに負けじ、感情に落差をつけるよう急激に唸りを上げるギターにはどこかJonny Greenwoodにも通じるものがあるし、00年代の関西アンダーグラウンドシーンとも共振する。
メンバーの平均年齢はまだまだ20代、恐ろしい才能の片鱗を感じる一枚。
乙女絵画 - 燃えて (MV) - YouTube




・Phlebotomized - Clouds of Confusion
[Melodic Death Metal/Progressive Death Metal]

結成30年超を誇るオランダの古豪。Opethを代表とするプログレッシヴデスメタルの味も沁み込んだ本作は、噛めば噛むほどデスメタルの旨味が浸透する作品に仕上がった。
デスメタルメロディックデスメタルの境界線が曖昧だった時代の美しさ、スラッシュメタルから吸い上げたリフの鋭さもしっかりある。体感速度は存外速い。この辺りは90年代から生き残ったベテランの風格だ。
妖艶なキーボードがデスメタルのアグレッションに絡みつく様は、Amorphis『Tales from the Thousand Lakes』やEdge of Sanity『Crimson』にも匹敵する、幽玄な素養がある。
深いグロウルから紳士的なクリーンの優しさに至るまで情緒を乱高下させるヴォーカルもさすがの貫録。
妖しく輝く出色のデスメタルに舌鼓を打つ一枚。
Phlebotomized - Destined To Be Killed (Official Video) - YouTube




・Prong - State of Emergency
[Groove Metal/Industrial Metal]

名盤『Rude Awakening』に勝るとも劣らない作品を引っ提げてProngが帰還するとは思わなかった。
斬れ味鋭いクランチリフがぶっ放されるスラッシュメタル、従来のグルーヴメタルやインダストリアルメタルを混ぜ合わせたスタイルは、Ministryを思わせる。
プロダクションはかなり良く、重厚感と明瞭さが両立しているのも特徴的だ。
そのため、90年代の閉塞感と今の溌剌さが共存している。一聴して、キャッチーさが全体を貫いている。
甲高く特徴的なTommy Victorのヴォーカルは、少しの衰えも感じさせない。
前半のアグレッシヴでブルータルな楽曲からグラデーションのように変化し、ニューメタルやポストパンク的な後半の構成も素晴らしい。
ベテランの熟達した風格と若々しさを取り戻したようなキレを感じるテンションの高い一枚。
PRONG - The Descent (Official Music Video) - YouTube




・Realize - Two Human Minutes
[Industrial/Hardcore]

前作から破格のスケールアップを遂げた作品である。
Godflesh直系のインダストリアルと、ハードコアの激情感をブレンドしたスタイルに変化はない。
本作はインダストリアルの素養が強く表出し、削岩機か機関銃のごときハンマービートが聴く者の横っ面を殴り続ける。
ヴォーカルエフェクトをかけたVoの無機質な冷徹さはそのままに、時折衝動が全面に出る部分も印象的だ。
不穏なノイズとピアノが混ざり合う不安を煽るインスト「Din」から重苦しいスラッジと油の臭いが結合するインダストリアルスラッジ「Predawn Gloom」はまさに彼らがGodfleshの子どもたちであることを感じさせると共に、彼らにしか鳴らせないインダストリアルを表現していることがわかる。
鈍く身体を麻痺させるような、図太いビートがひたりひたりと迫りくる一枚。
Realize - Nature Bot [OFFICIAL MUSIC VIDEO] - YouTube




・Ruïm - Black Royal Spiritism - I​.​ O Sino da Igreja
[Black Metal]

Blasphemerがブラックメタルに帰還する。そのことだけでも大きなトピックである。
蓋を開ければ、本作がMayhemで聴けたあのギターがふんだんに敷き詰められた、速射砲にも似たブラストビートが聴く者を執拗に追いかける凄まじいブラックメタルだったのは、さらに喜ばしい。
もちろん、アグレッションだけではない。静謐さを煮詰めたパートでは、BlasphemerがMayhem脱退後に追求していたゴシックロックの頽廃やメランコリーが脳髄に甘く染み込む。
聴く者を篩にかけるような10分のオープナー「Blood.Sacrifice.Enthronement」の時点で、静と動の明滅がコントラストを生んでおり、作品の最後まで突っ走っている。
由緒正しいブラックメタルの様式と、彼の洗練されたテクニックや先進性が惜しみなく注ぎ込まれた一枚。
RUÏM - The Triumph (of Night & Fire) (from Black Royal Spiritism – I – O Sino da Igreja) lyric video - YouTube




・Runemagick - Beyond the Cenotaph of Mankind
[Death Metal]

彼らの言によれば、「Runemagickの音が滲み出るようなアルバム」そのものの作品だ。
どこをどう切り取っても混じり気のないRunemagickのデスメタルである。
それは、Nicklas "Terror" Rudolfssonの弾く艶かしさと絶望感を滲ませた危険なリフであったり、Katatoniaとは違った剛腕で魅せるDaniel Moilanenのドラムであったり。
表題曲では、ノイズアンビエントを付与することでコズミックデスメタルへの歩み寄りをも聴かせる柔軟さもある。
本作における陰鬱なドゥームデスは、彼らの最も重苦しい名盤『Envenom』にも接近するマニアックな要素もあるのも喜ばしい。
それでいて、ドラムの軽妙さで走り抜けるドライヴ感も残っている。
まさに古豪の凄味を叩き込まれる一枚。
Runemagick - Endless Night And Eternal End - YouTube




・Sarmat - Determined To Strike
[Technical Death Metal]

凄まじくスキルフルなデスメタルの新星。
Imperial TriumphantのSteve Blancoが参加しており(正式なメンバーではなく、本作のみのよう)、デスメタルとジャズを折衷するスタイル。
Artificial BrainのOleg Zalmanを擁し、KralliceのColin Marstonがマスタリングを手掛け、ニューヨークの豊富な人脈が噛んでいることがわかる。
Gorgutsに類する複雑怪奇にねじ曲がったテクニカルデスメタルに、フリージャズ由来のピアノや管楽器で狂気と暗闇を叩きつける。メンバーの母体ほど洗練されたものではないが、野性味溢れるグルーヴや残虐なリフワークに、全てを捻じ伏せる凄みを感じるだろう。
凶悪なガテラルに飛び道具のようなサックスが絡む様に、快楽が呼び起こされる一枚。
Determined To Strike (Dead Hand Cycle, Pt. 1) - YouTube




・Shūnyatā - The Dark Age
[Melodic Black Metal]

青いブラックメタルのカバーアートは基本的に外れないが、本作も多分に漏れず素晴らしい哀愁を聴かせるメロディックブラックである。
バンド名は仏教用語で「虚」や「空」を意味するが、その名の通りバンドのテーマはブッディズム(仏教)。
ジャケットの通り、基本的にはDissectionからの影響を随所に感じる王道のメロディックブラックメタルだが、合間に挟まれるギターインスト「Loss」や「Sweetness and Sorrow」の持つメランコリックを通り越した虚無感が、凶暴なブラックメタルをより引き立たせる味わいがある。この2曲が、彼らの仏教的世界観を象徴する印象だ。
「The Dark Age」や「The Cycle」のように、朴訥で寒々しい疾走は、本国アメリカよりも90年代北欧の闇深い森を想像できる一枚。
Shūnyatā - The Path (Official Music Video) - YouTube




・Somnium de Lycoris - In The Failing Hours
[Technical Death Metal]

若さとアイデアが溢れたテクニカルデスメタルの希望とも言える。
うねりまくるベースの心地良いドライヴ感はもちろん、メンバーの嗜好が強く反映したテクニカルなだけでなくメロディックなギターリフであったり、噛みつくようなヴォーカルの獰猛さは初作ですでに破格の完成度を誇る。
メインコンポーザーのクラシカルな趣味もうまく溶け込み、広いレンジでファンを獲得できる強さもある。
客演も素晴らしく豪華だが、彼らに負けないバンドの地力を感じられるのもこの手のジャンルのファンには嬉しい。
特に組曲である「In The Failing Hours Pt1&2」はAORやポップの爽やかさから一気に広がりと凶暴さ溢れるドラマチックなピアノも涙腺を刺激する16分になっていて、白眉の出来だ。
縦横無尽に飛び交う演奏が耳を引く、力技だけではない一枚。
Somnium de Lycoris - Out of My Depth - YouTube




・Sühnopfer - Nous sommes d'hier
[Melodic Black Metal]

祝福を呼び込むように高らかに唸るトレモロのメランコリーに、悲愴的なVoが張り上げられる。
Sühnopferの新作は、前作を発展させた上で全く異なる次元に立っている。
福音を感じるホーリーなメロディーは、メディーバルブラックとしての円熟を感じるし、あくまで暴走気味の疾走を保持するところは王道のメロディックブラックだ。
聖歌のようなコーラスをふんだんにちりばめるため、凶悪なブラックメタルなのに神聖さを感じるという、アンビバレンツで異様な聴き心地を与える。
彼らのテーマ/コンセプトの一つ、ブルボン家の栄枯盛衰の枯れを表現したようなカバーや、シャンソンブラックメタルにアレンジした「Le Bal des Laze」をラストに据え、悲劇的な顛末を描こうとするストーリーラインも素晴らしい。
美しさと狂気を強く滲ませた、フレンチブラックの気高さを感じる一枚。
SÜHNOPFER - D.S.F.R. - YouTube




・sukekiyo - EROSIO
[Progressive Rock]

近年Petit Brabanconをはじめたことで、さらに差別化ができるようになった。
sukekiyoは、女性的、それも倒錯気味の恋愛関係の目線が目立つ歌詩が特徴だが、本作はより顕著に。京の提示する世界観に呼応して、楽器隊の演奏はよりしなやかに。
音作りの面でも、ヴィジュアル系の耽美さが根を張ったプログレッシヴロック、昭和歌謡の表情も色濃い。
前者は「訪問者X」、後者は「MOAN」に濃厚だ。
過去作にあった無国籍風といったテーマは作を重ねていくごとに薄れている。というのも、本作を聴けば、sukekiyoは日本的な情緒、現代日本の病理がそこかしこに息づいているのがわかるからだ。
とは言え、インダストリアルの無機質な殺伐さ、ハードロックのギターの様式美といったものもさらりと折衷している辺り、成熟した佇まいが刻印されている一枚。
sukekiyo 「訪問者X」 Music Video (full ver.) from『EROSIO』(2023.8 release) - YouTube




・Taubrą - Therizo
[Black Metal]

Aaraのメンバー2人を擁するバンドだが、Aaraにあるポストブラックやアトモスフェリックブラックの筆致は本作には希薄だ。
Taubrąはよりプリミティヴで、より恐怖を煽る本来のブラックメタルに近い。
プロダクションは良好でRawな荒々しさはないが、アグレッションを強めに出すメロディックブラックを演奏しており、MardukやMalphasを想像する。
威厳に満ちたVoも、スピードに振り落とされることなく演奏を御しているかのようだ。
荒涼としたトレモロで大地を揺るがすような「Dire Necropolis」であっても凄まじいブラストビートを轟かせるドラムが骨格にあり、Taubrąの信条はブルータルなブラックメタルであることがわかる。
冷たさよりも邪悪さ、荘厳さが表出した、徹頭徹尾ギターで押し切るビターなメロディックブラックが聴ける一枚。
Taubrą - Vale Of The Taubra - YouTube




・Thron - Dust
[Melodic Black Metal]

これぞ、ジャーマンメロディックブラックの王道と膝を打つ逸品になっている。
思慮深くメロディックトレモロリフを織り上げていき、冷たい吹雪に聴く者を曝す。
本作から加入した新しいドラマーのワーカホリックぶりにも舌を巻くが、Thronではこのバンドらしいストレートに体感速度の心地良さを押し出したドラムに注力しているようだ。
「The True Belief」のメランコリックなリフワークとルーズなグルーヴの心地良さにはブラッケンロールの視座を感じる。
甲高いトレモロが唸りを上げる「The Tyranny of I」であっても、凄まじい猛吹雪を叩きつける「Monologue」であっても、とにかくドラマチックなVoワークが聴けるのも嬉しい。吠え叫び続けるだけではないのだ。
存外、一曲の中で様々な表情に変わるプログレッシヴな風合いも楽しい一枚。
THRON - Dust FULL ALBUM - YouTube




・Tigercub - The Perfume of Decay
[Rock]

グランジの香りが先祖返りしたかのようなギター、重量級のビートが導く妖艶なロックアルバム。
悩ましい雰囲気の物憂げに歌うVoこそ内省的だが、ハードなギターロックの骨格をさらに強固にした。
本作のギターメロディーは官能的ですらある退廃的なものだが、時折軽やかな甘さを織り込む洒脱さもある。
初期Arctic Monkeysの軽妙さばかりかQueens of the Stone Ageの重厚感、Museのような拡がりをも体得しているスケールの大きさも感じられる。
全体的にはミドル〜スロウなBPMのヘヴィな作品ではあるが、リズムの強弱ははっきりしているため、退屈とは無縁だ。
印象的なフレーズでメランコリックな叙情を強く滲ませた、バンドの成長を大きく感じる一枚。
THE PERFUME OF DECAY [OFFICIAL VIDEO] - YouTube




・Trounce - The Seven Crowns
[Mathcore]

他ジャンルがブラックメタルから着想を得て作品を作る、というのは時々ある。
Sonic Youthもかつて作っていた。ただし、往々にして思想的なバックグラウンドを織り込む、といったものだ。
Coilgunのメンバー擁するスイスのTrounceの新作は、そういったものではない。
本作は、Dark Funeralの『Diabolis Interium』をマスコアに落とし込む、といったもの。
元々は思慮深いポストメタル〜ポストロック寄りだったが、まず強烈なブラストビートに耳が行く。高低差のある立体的な組み上げ方をするリフにマスコア感があるが、かなりストレートにブラックメタルに寄せている。
Voがクリーンなため、まるでAstronoidのような不可思議な雰囲気が楽しい。
キャッチーなアンセム級の楽曲もライヴ映えしそうな一枚。
Trounce - Faith, Hope, Love (Official Audio) - YouTube




・Violet Cold - Multiverse
[Post Black Metal]

「Various」と自身を形容するほど、ブラックメタルに様々なジャンルをクロスオーバーさせ、独自のスタイルを築いてきたEmin Guliyev。
Empire of Love』での周囲の評価とのギャップを埋めるかのような前作の流れを汲む、ブラックゲイズとプリミティヴブラックの素養を吸い上げるような作品だ。
もちろん、彼ならではのEDM的サウンドデザインは存分にあるし、土着的なフォーキッシュなメロディーもさらりと織り込んでいる。だが、本作はあくまで主体はブラックメタルだ、と主張するトレモロが前面に出ている印象だ。
エレクトロの要素も『Noir Kid』ほどの享楽性はない。プロジェクトとしても強烈な新味があるわけではない。
だが、確固たるオリジナリティとアイデンティティの成熟と円熟を強く感じる一枚。
Violet Cold - Stardust (from "MULTIVERSE") - 2023 - YouTube




・Wayfarer - American Gothic
[Black Metal]

ブラックメタルとサザンロックの融合と言えば、Cobaltや一時期のGlorior Belliが挑んでいたが、うまく結実しなかった。
Wayfarerの5作目となる本作は、その流れを汲む作品であると同時に、見事にブラックメタル✕サザンロックを成し遂げた。
さらに、タイトルにもある通り、アメリカに脈々と流れる頽廃的な素養も加味してだ。
このサザンゴシックの要素はヨーロピアンゴシックとは少し毛色が異なる。
ブルーズの哀愁を組み込んだギターに加え、適度にブラストを交えた爆走を組み込むなど、ブラックメタルの凶暴さもしっかり保持。
作り込まれたマカロニ・ウエスタンの雰囲気は、当時の手配書を模したブックレットにも表れている。
まるで木枯らしが吹く荒野を流離う剽盗や保安官の血腥い銃撃戦が目に浮かぶような一枚。
WAYFARER - To Enter My House Justified (OFFICIAL VIDEO) - YouTube




・world's end girlfriend - Resistance & The Blessing
[Experimental/Classical/Electronica/Post Rock]

35曲2時間を超える膨大な時間を彩るのは、ファンタジックなメロディー感と壮大な叙事詩
本作の中身を形作るのは、エレクトロニカやポストロックを通過したマテリアルや、クラシカルな音の配列である。
だが、本作は生命と自由への活力に満ちており、殺伐とした世界を紐解きながらも、解けていくことへの歓喜、祝祭感に満ちている。
ニンテンドーコアのようなチープなパートであっても、奇妙に捻じくれて提示される。
本作を聴覚以外を封じられた状態で聴いた時、あまりの情報量に圧倒された。こうしてパッケージされたものを聴いても、それは変わらない。
彼の脳内を流れる物語の変遷を、朴訥な語り、ヒステリックなノイズ、祝砲のようなリズム、神経を切り裂くようなギター、全てが奇跡的なバランスで織り上げている一枚。
world's end girlfriend / IN THE NAME OF LOVE / MUSIC VIDEO - YouTube




▼所感▼

本年も、蓋を開ければ豊作でしたね。今年はライヴよりも怪談会によく行っていた気がします。怪談会繋がりで、同好の士も増えました。たくさん怖い話を聴けて幸せな一年でしたね。
怪談会に行っていますと、音楽マニアとの共通項も感じますし、音楽好きの方も多いです。メタル好きも。
音楽作品としては、不思議とボリューミーなものが多かった印象です。WEGもLiturgyもそうですし、スマパンもそうですね。
コロナ禍が明けて(厳密には消滅したわけではないですが)、制作の箍が外れたからでしょうか。
それに、本ブログではインタビューもいくつか掲載できたのが大きいですね。
特に、私の大好きなデスメタルバンドRunemagickにコンタクトできたのが本当に嬉しかったです。
来年もまたよろしくお願いいたします。