Winds of Tragedy / Hating Life
チリのブラックメタル/ドゥームメタルによる2作目フルレングス。
アトモスフェリックなドゥームデスを追求するRise to the SkyのSergio G.ことSergio González Catalánが別の表現としてはじめたのがこのWinds of Tragedyです。
彼の独りバンドですが、前作に続き本作でも元The AutistのEmidio Ramosがドラムで客演しています。
ミックスやマスタリングには、On Thorns I Layにも在籍した経験を持つOcean of GriefのギタリストFilippos Koliopanosを迎えています。
本作ではギターの圧の強さが増し、時折ドゥームな展開を混ぜるメロディックブラックとしての説得力を増しています。
また、ギターのチューニングの影響か、高音域で締め上げてくるようなトレモロはポストブラックメタルのよう。個人的な所感ですが、ポストブラックメタルのギターは圧の強いソリッドなものが多いんですね。本作もその特徴を強く継いでいるので、ポストブラック的といった要素が濃くなっています。
これは意識的に取り入れているのか、淡いフレーズで幕を上げるM-1「Living a Lie」は、青白い叙情を聴かせる楽曲に仕上がっています。
風の音が耳を引く立ち上がりの儚さのブラックゲイズに接近するようなムードを引き裂くような暴虐的な突進は目も覚める鮮烈さです。
一転して重苦しいリフに柔和なトレモロを合わせるブラッケンドドゥーム然とした鈍重さと軽やかな疾走をスイッチするM-2「I Choose to Die」、陰鬱なリフで悲壮感たっぷりの激走で突っ走る直球のメロディックブラックM-3「Hating Life」と、最初から情け容赦のないみんな大好きスピードとパワーで捻じ伏せてきます。
キーボードによる優美なメロディーが落涙を呼び起こす物憂げなトレモロも美しいM-4「No Reason to Go On」、前曲の柔らかさをそのまま疾走させたかのようなニューウェイヴにも接近したM-5「Wake Me Up From This Act」の2曲は、前作にはなかった、ポストブラックメタルと言ってもいい音像を提供していますね。
むしろ、本作全体のギターの圧の強さは、Ghost BathやGaereaのようなバンドの影響を感じます。
再び風と柔らかなアルペジオを用いたイントロからの唸り声のような歌や悲しげなトレモロを伴って慟哭するM-6「Death Love」、Rise to the Skyのような重圧感のあるドゥームデスから一気に解放するかのような爆走に雪崩れ込むM-7「Remember We Died」に至るまで、緊張感が持続する素晴らしい構成です。
単純明快に、爆走の格好良さをこれでもかと提示しているのが基盤にあります。
ハイハットの金属音も効果的に配置し、体感速度を高めるドラムのいい仕事振りが、楽曲の良さを存分に高めています。前作よりも明らかに速度を増していて、ほぼ別物なので前作のようなアトモスブラックを欲していた方には透かされるかもしれません。
とは言え、前作の要素が全くないわけではありません。
柔らかさと荒々しさを自然に溶け込ませ、聴く者を縦横無尽に引きずり回す楽曲構成は実に緻密。
ミキシングの良さも手伝い、クリアでブルータルな音像もいい仕事していますね。
ブラックメタルの様々な示唆に富む、非の打ち所がない傑作です。
1. Living a Lie
2. I Choose to Die
3. Hating Life
4. No Reason to Go On ★
5. Wake Me Up From This Act
6. Death Love
7. Remember We Died
(2023/Tragedy Productions)
Time/35:24