むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Imperium Dekadenz / Into Sorrow Evermore


Imperium Dekadenz / Into Sorrow Evermore



ドイツのアトモスフェリックブラックメタル/ポストブラックメタルによる7作目フルレングス。




3作目『Procella Vadens』や4作目『Meadows of Nostalgia』で開拓したポストロック然とした音響、近作のアトモスフィアを重視した深淵を覗きこむような叙情が見事に溶け合った作品です。
元々は純然たるブラックメタルを表現していましたが、本作ではそれら初期のフィーリングも回帰しています。つまり、冷たく邪悪な世界が主軸だということですね。
ささくれ立つような気分にさせられるトレモロピッキングは、まさしくブラックメタルといった風情。また、威圧感のあるがなり声も同様に、ブラックメタルの真髄に触れるような感情的なものです。
過去にはテクニックにムラがあるといった評が見受けられたドラムは、ここ近年めきめきと上達しており、彼らの世界観をしっかり支える屋台骨として機能しています。このドラムが匠で、基本ミディアムで泰然とした本作ですが、退屈とは無縁のタイミングで撃ち込んでくるんですね。良質なプロダクションと相俟って、より透き通った深い底に連れて行ってくれる作品に仕上がる一助になっています。
大きく間を取るようなトレモロの厭世的なムード渦巻くM-1「Into Sorrow Evermore」には、素養のあったデプレッシヴブラックメタルを感じられ、ミステリアスな本作を象徴しています。
確かな推進力で疾走するドラムに被さる神経に障るギターがじんわり脳髄に染み込むM-2「Truth under Stars」、夜気を模したピアノに導かれるブラックゲイズの開放感を味わえるトレモロが映える表題通り澄み切った美しく遠大なM-3「Aurora」、メランコリックなフレーズを序盤に放り込むギターや押し引きの粋を極めたドラムなによる壮大な感傷が胸に迫るM-4「Elysian Fields」が終わる頃には、彼らの悲哀と慈愛に平伏していることでしょう。
スローなタイム感のトレモロとしゃがれたVoに呼応して軽やかに疾走するペイガンブラックの装いすら感じるM-5「Forests in Gale」、四つ打ちのポストパンク調のビート感に薄闇の叙情を塗してベーシックなブラックメタルに展開するM-6「Awakened Beyond Dreams」、じりつく緊迫感溢れるギターで蜷局を巻くような分厚いグルーヴを構築する轟音が立ち昇るM-7「November Monument」、河の氾濫をテーマにした荒々しいドラムと自然の猛威を突きつけるようなトレモロやVoの物悲しさとの対比が際立つM-8「Memories... a Raging River」で幕を下ろす深い視座を持った作品になっています。
全体的には、彼らが言うようなオーガニックでベーシックなブラックメタルに回帰している感触が濃いですが、これまでの旅路で培ってきたポストブラックメタルやアトモスフェリックブラックメタルの要素が削がれているわけではありません。
むしろ、それらの要素は着実に血肉に溶けているため、ことさら意識して組み込む必要もないということでしょう。
ブラックメタルの暴虐的な表情は片鱗として残っていますが、さほど主張しているわけではないです。そのため、激しすぎるのが疲れるといった方にもうってつけ。
物足りないと言わせないだけのメランコリーの説得力が凄まじい、彼らの最高傑作と呼ぶに相応しいアルバムです。



1. Into Sorrow Evermore
2. Truth under Stars
3. Aurora
4. Elysian Fields
5. Forests in Gale
6. Awakened Beyond Dreams ★
7. November Monument
8. Memories... a Raging River
(2023/Napalm Records)
Time/50:55


Score:9.8/10


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