むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Oranssi Pazuzu / Mestarin kynsi

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Oranssi Pazuzu / Mestarin kynsi


フィンランドブラックメタルバンドによる5作目フルレングス。



サイケデリックブラックとしての立ち位置を確立し、癖の強いブラックメタルを追求する彼等の新作は、よりインダストリアルに接近しながらも不定形に伸縮するアメーバのような音像。
こう書くと実験的すぎるような印象を受けますが、骨格としての演奏の強度やメロディーは間違いなくブラックメタルであり、土着的な色合いは欠片も失われていません。
意味不明なのに聴けば聴くほどどこかキャッチーなのも特徴と言えば特徴。
禍々しく歪ませた悪魔的なVoがその聴きやすさを統率しているのも素晴らしいですね。
とは言え、これまで以上にメタル以外のリソース、例えばPortisheadNine Inch Nailsなどの因子をそこかしこに忍ばせているので人を選ぶ作風になっています。
前作までの要素を散りばめながら不穏に闇から這い出てくるM-1“Ilmestys”からして恐怖感を煽る演出を血肉にしています。
宇宙から飛来する何かを思わせる電子音が乱舞する中を美しく彩る鬱屈したフレーズが牙を剥くM-2“Tyhjyyden sakramentti”、気が滅入るフレーズとコーラスを反復で攪拌させていき暗黒的でダンサブルな狂騒を繰り広げるM-3“Uusi teknokratia”、優美にねじ曲がったメロディーの隙間から浮遊感と重厚さを同居させたバッキングが凶悪に揺らめくM-4“Oikeamielisten sali”、変則的に歪んだ四つ打ちにノイズを這わせて苦鳴に呻くメタル色を排したインダストリアルの鋭さで迫るM-5“Kuulen ääniä maan alta”、悲壮的なドローンノイズと化したギターを滅茶苦茶に破壊しながら怪物の誕生を祝福するようなM-6“Taivaan portti”と、かなり入り組んだ作品に仕上がっています。
一筋縄でいかない楽曲展開でアヴァンギャルドな印象を受けるのですが、個人的にはアヴァンギャルドやエクスペリメンタルと言うほど難解で変則的な感じは受けなく、異なる位相をスムーズに展開していくのでプログレッシヴメタル的な印象を受けました。
邦題である“鉤爪の王”がマヤから取られたのかは国内盤では持っていないのでわからないですが、禍々しくて大仰な感覚がなかなか言い得て妙だな、と。
邪悪で、謎めいた壮大なものが聴きたい方には打ってつけの、ブラックメタルの奥深さを更に推し進めることに成功した傑作。



1. Ilmestys
2. Tyhjyyden sakramentti
3. Uusi teknokratia
4. Oikeamielisten sali
5. Kuulen ääniä maan alta ★
6. Taivaan portti
(2020/Nuclear Blast)
Time/50:12