むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Violet Cold / Multiverse

Violet Cold / Multiverse

アゼルバイジャンのポストブラックメタルによる12作目フルレングス。



年始辺りに界隈をざわつかせた、ちょっとした騒動を経ての新作です。
Violet Coldと言えば、「Various」と自身を形容するほど、ブラックメタルに様々なジャンルをクロスオーバーさせ、独自のスタイルを築いてきたEmin Guliyevの独りバンドです。
その様々なジャンルの中でも彼の立ち位置と評価を確固たるものにしたのは、ブラックメタルにエレクトロ/EDMを組み込んだことだと思います。
元々シューゲイザーやポストロックを違和感なくブラックメタルに折衷していましたが、ある意味対極的な、EDMの享楽性を付与した『Kosmik』『Noir Kid』の衝撃はかなりのものでした。
前作『Səni Uzaq Kainatlarda Axtarıram』は若干抑えめでしたが、本作ではエレクトロを揺り戻しています。
オープニングを飾るM-1「Multiverse」を聴けば、いつものViolet Coldだと思えるブラックゲイズに透明度の高いキーボードが溶け込む音を聴かせてくれます。
また、この曲を聴けばわかるように、中東の民族音楽的な音階を多用していることも特徴的ですね。女性コーラスの美麗なサウンドスケープも、神秘性を増強する役割を担っています。
きらびやかなシンセで静寂を産み出しエレクトロビートから一気にブラックメタルへと解放するM-2「Shazam the Void (extended version)」、トレモロの鮮やかさと軽やかな疾走でストレートにキャッチーなブラックメタルを聴かせるM-3「Emocean」、少し重心を落としたミドルのBPMで爽やかなギターと厳つい絶叫を轟かせるM-4「Stardust」と、序盤からどこをどう切り取ってもVC印の楽曲が並びます。
エキゾチックなリズムとメロディーで中東の雰囲気をブラックメタルに組み込むM-5「Calliope」、ロマンチックなシンセの雰囲気を崩さず終盤の殺傷力高めなブラックゲイズに雪崩れるM-6「Ein langer Weg (extended version)」、トレモロとDnBチックなリズムの蜜月を経てギターソロも唸る鮮烈なエクストリームメタルを構築するM-7「Gentle Soothing Affection」、火照った身体をクールダウンするような冷たいアンビエントとエレクトロがそっと寄り添うM-8「Love Designer」と、Violet Coldの本気を感じる過去最高にキャッチーな傑作です。
「NSBMしか勝たん」みたいなことを言って炎上したことも何処吹く風、プリミティヴブラックに寄ることもなく、ここまで美しい作品を提示されるとぐうの音も出ないですね。
Empire of Love』でLGBTQ周辺の旗手として挙げられたことにギャップもあったのか、そういった思想的な位置とも距離は置いている模様です。とは言え、スラング的には割と強烈な意味のある苺をカバーに据えていたり、多くを語らずとも何らかな意思表明は感じられます。
本作を含めたフルディスコグラフィーCD20枚ボックスセットがあったりもするようなので、これを機に、揃えられる人はいかがでしょうか。



1. Multiverse
2. Shazam the Void (extended version)
3. Emocean
4. Stardust
5. Calliope ★
6. Ein langer Weg (extended version)
7. Gentle Soothing Affection
8. Love Designer
(2023/自主制作)
Time/39:50

Score:10/10


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