Ataraxy / The Last Mirror
スペインのデスメタルによる3作目フルレングス。
初めて聴きました。
Apparitionという同じくスペインのデスメタルのメンバー2人、ブラックメタルBlack Spiritのギタリストらによって結成されたバンドです。
その音楽性は黒く陰鬱なメロディーを艶やかに聴かせるタイプのデスメタルであり、瘴気渦巻くようなリフワークの構築にはAsphyxやGrave Miasmaらに類似を見出だせます。昨今流行の兆しを見せる不協和音系デスメタルとも全く異なり、ベーシックなデスメタルやOpethらプログレッシヴ・デスメタルの素養を吸い上げている印象も濃いです。それがユニークですね。
それ故、全体的な質感も悪辣で粗暴なデスメタルというよりは、非常に艶やかで、気品を感じられるもの。Replacireにも近い雰囲気を感じられました。詩情豊かな歌詞はとても美しく退廃的な調べです。「The bell that constantly sounds heralds another loss(絶えず鳴り響く鐘は新たな喪失を告げる)」なんて一文が示す通り、鐘の音をサンプリングしたSEが作品全体を覆っているんですね。これがまた破滅的でいい。
VoのタイプもAsphyxに近い高音域で喚き散らす悲壮感の強いもの。
Incantationに通じる重苦しくドロッとしたリフも特徴的。鈍重なダウンパートに荘厳なメロディーを乗せ、激しいドラムが耳を引く疾走パートでコントラストを生んでいるのは、実質的にオープナーであるM-2“The Bell That Constantly Sounds”から聴けます。
要所要所で切迫感を煽るようなフレージングを入れているのも嬉しいところ。
ストレートな疾走感を持ち味にキャッチーで切れ味鋭いリフも耳を嬲るM-3“Decline”、寂しげな単音フレーズに壮麗さを織り交ぜながらもゆったりと蜷局を巻く大蛇が如きドゥームデスM-4“Visions of Absence”の前半〜中盤でも凝った展開を持つ楽曲が並びます。
ざらついたダウンチューニングのリフと悲壮的なVoが淫靡なメロディーパートに突貫していくM-5“Under the Cypress Shadow”、名の通り静寂感を漂わせるギターから一気に爆縮するようなブルータルな疾走に雪崩れていくM-6“Silence”、湿度の高い艶めかしいギターメロディーにより生まれるメランコリーとその感傷を破壊するような破滅的なアグレッションをスイッチする最終曲M-7“A Mirror Reflects Our Fate”に至るまで、繊細な曲展開を楽しめます。
プロダクションの妙もあって、デスメタル期のOpethのような妖艶さがあるため、前述の通りプログレッシヴ・デスメタル的な佇まいもあります。
本作、非常に楽器の鳴りもいいので、芳醇さに耽溺するのも乙なものに仕上がっています。
作り込まれた世界観を見事に表現しきる精緻な演奏も見事なものでした。
完全にダークホースの作品でしたが、新たなデスメタルアルバムを探している方にもうってつけの一枚です。
1. Presages
2. The Bell That Constantly Sounds
3. Decline
4. Visions of Absence ★
5. Under the Cypress Shadow
6. Silence
7. A Mirror Reflects Our Fate
(2022/Me Saco un Ojo Records)
Time/41:48