むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

「傑作!」を連発するレビューブログを目指しています。コメントは記事ページから書込・閲覧頂けます。

Without Waves / Comedian


Without Waves / Comedian


アメリカのカオティックハードコアによる2作目フルレングス。



例えばMeshuggahのようなリズミックなリフでひたすらに速くカオティックなハードコアを聴いてみたいと思われた方はいるでしょうか。
本作はそういった欲望を満たしてくれる、キレのある演奏が敷き詰められた凄まじいアルバムです。
さらに言えば、Deftonesにも相通じるどこか耽美なメロディーラインや、エモ直系の感情的で切実なクリーンヴォーカルまでも組み込まれています。
アヴァンギャルドなジャズやフュージョンを思わせる妖艶な静寂パートも凶悪なアグレッションと同等の次元に存在しており、一種異様なまでのハイテンションぶりに拍車をかけているのは、M-1「Good Grief」から一貫しています。また、この曲の歯切れのよい畳みかけるスクリームはアンセミックな一体感をもたらし、聴く者を狂乱の渦に叩き込むオープナーとしてこれ以上ない仕上がり。
脳天から突き抜けるような咆哮に倦怠感のあるコーラスを重ねて尋常じゃないスピードで幕を下ろすM-2「Animal Kingdom」、小気味良いドラムの軽快さと囁くヴォーカルや重ためのカッティングでフロアを意識したかのようなダンサブルなDjentコアM-3「Algorithm」、少し落ち着きを取り戻したテンションから艶かしいクリーンVoのコーラスパートに繋げるM-4「Set & Setting」、00年代ニューメタルの因子を継いだDeftonesに類する物憂げで美に耽るメロディーが美しいM-5「Sleep Deep」と、緩急を自在に操り、翻弄するような前半です。
耳に優しくない肌触りのリフに三半規管を狂わすフレーズを這わせて反復を執拗に聴かせるM-6「Do What Scares You」、爽やかなクリーンVoの幕開けから転がっていくようなリフ捌きで疾走感溢れるM-7「Sleight In Shadows」、艶やかなフレーズを弾く穏やかなギターとやけに響くバスドラムの心地良さが頭蓋に響く耽美なバラードM-8「Day 15」、美をつきつめて歌にフォーカスしたメランコリックなジャズヴォーカル風のM-9「Worlds Apart」、前曲の感傷を引きずった冒頭から残響を活かした静寂を切り裂く混沌に最後まで引きずり込んで終わらせるM-10「Seven」と、非の打ち所がない完璧な構成です。
後半にいけばいくほど彼らの美意識が現れたメロディアスな美しさに落とし込まれていくのですが、それでもテンションの高さが削がれている印象は全く受けません。
反復するリズムはもちろん、最後の最後まで気を抜かせない構築力は見事な大傑作ですね。
単純な格好良さの裏の情報量がえげつない、研鑽と試行錯誤に打ちのめされる作品。



1. Good Grief ★
2. Animal Kingdom
3. Algorithm
4. Set & Setting
5. Sleep Deep
6. Do What Scares You
7. Sleight In Shadows
8. Day 15
9. Worlds Apart
10. Seven
(2022/Prosthetic)
Time/55:24

Score:10/10


www.youtube.com