Ihsahn / Ámr
ノルウェーのプログレッシヴ/ブラックメタルアクトによる7作目フルレングス。
北欧の皇帝による新作は、前作のとっつきやすいメタルサウンドを取り入れつつも趣を異にした作品となりました。
まず、前作まであったサックスが排除、代わりに分厚いシンセが前面に出ました。
この路線変更は、彼の娘がEDMにハマっていることとも無関係ではないようですが、そこはIhsahn、EDMには決してなりません。
激しいドラムにまとわりつくシンセの感触が楽しいM-1“Lend Me The Eyes Of Millenia”はもはやダークウェイヴ×ブラックメタルと呼べるものになっています。
この路線は、4th“Eremita”と5th“Das Seelenbrechen”を6th“Arktis.”で割ったようなものだと思いました。
前作では希薄だったスラッジ紛いの噴き出すような陰鬱さが復活しているのが個人的に嬉しいです。
わかりやすく暴虐的なM-2“Arcana Imperii”をこの位置に配置するいつもの構成も彼の美意識が感じられるし、滑らかなアンビエントなシンセに乗せて悲壮感を軽やかに歌うM-3“Samr”、重たいギターが唸るグルーヴィーで暗く噛みつくようなVoがかっこいいM-4“One Less Enemy”の序盤の流れが非常に自分好み。
原初的に反復するリフが流麗で退廃的なメロディーに絡みつくAlt-R&BのようなM-5“Where You Are Lost And I Belong”、渦巻く電子ノイズと重厚なギターが唸るダブステップ的でもあるM-6“It Rites Of Passage”、前曲の続編的にリフを紡ぎよりメタリックで重たいグルーヴでうねりまくるM-7“Marble Soul”の中盤の流れは確実に“Das Seelenbrechen”を順当に進化させたように思えます。
彼の曲では最もに近いほど明瞭で物憂げな歌メロが哀感を呼ぶM-8“Twin Black Angels”、そして作中最も暴虐的なリフとブラストビートで突っ走るM-9“Wake”で本編を終えますが、限定盤ボーナスのM-10“Alone”の壮絶な幕引きなくして今作はすっきりしないほどぴたりと作品にハマっています。
この曲の邪悪で優美な静けさは合間に入る喧騒でも揺らがず、非常に荘厳で静謐な聴き心地。
安定した完成度と飽くなき好奇心に満ちた実験的な探究を両立した大傑作です。
加えてヘヴィメタルとしての聴きやすさも最低限残していて、単純にキャッチー。非の打ちどころがないです。
ここまで自分のツボをひたすら押されるとは思わなんだ。
この人の頭の中は一体どうなっているのか、狂気すら感じますね。
ちなみに“Amr”は旧い言葉で“黒”を指意味するそうな。
1. Lend Me The Eyes Of Millenia
2. Arcana Imperii
3. Sámr
4. One Less Enemy
5. Where You Are Lost And I Belong
6. It Rites Of Passage ★
7. Marble Soul
8. Twin Black Angels
9. Wake
10. Alone
(2018/Candlelight)
Time/55:01