むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

「傑作!」を連発するレビューブログを目指しています。コメントは記事ページから書込・閲覧頂けます。

2024年間ベスト41枚。

色々あった今年ももう少し。
今年もこの季節です。例年通り、41枚選出しています。
お楽しみいただければ幸いです。





Aara - Eiger
[Atmospheric-Black Metal / Post-Black Metal]

ほぼ1年に1枚のペースでリリースを続ける赤ローブ姿のブラックメタル集団。
本作は、前作までコンセプトに掲げていた「中世ヨーロッパの闇や暗部」から一旦離れている。
タイトルにも冠した、スイス最高峰アイガーで起きたモルドヴァント(北壁)での遭難事故を描く。
その明瞭なコンセプトにそぐうサウンドデザインで、吹雪を模した音やトレモロ、滑落を表現したような急激なブラストビートによる暴発で、雪山の過酷さを描く。霊山としての偉容を見事に表現しきっているのだ。
やりすぎなほどに歪んだヴォーカルは従来通りだが、このコンセプトの上で触れると、不思議と猛り狂う山の神の猛烈な息吹のように感じられるのが不思議だ。ギターの弦の軋みや丁寧なアルペジオによる叙情はさらに磨かれ、遥かに増した重量感と鮮やかなコントラストを生む。
トレモロによる濃淡を操る様に、切り立つ難所が眼前に立ちはだかるような錯覚になる一枚。
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As I Lay Dying - Through Storms Ahead
[Metalcore]

彼らの強みはどれだけメロディアスな要素を取り入れたとしても、全く強靭さを失わないということ。
メンバーを入れ替えての本作も、多分に漏れない。彼らのスタイルは全くブレていない。
メタルコアとしてのベーシックな部分、メロデスから吸い上げた単音リフ等を駆使したギターワーク、強烈に叩き落とすブレイクダウン、速さとリズムキープを加えたドラム、エモーショナルに歌い上げるクリーンヴォーカル、そして猛り狂うスクリーム。これら全ての要素が高い次元で結実し、メタルコアの帝王としての健在振りを示す作品となった。
様々なスクリーマーを招聘してクリーンを排した凶悪極まりない「We Are The Dead」は、圧巻の出来だ。
それだけに、本作リリース前後の騒動は残念至極と言わざるを得ない。
とは言え、奇跡的に集まったメンバーのスキルが遺憾なく発揮された、青く凶暴な一枚。
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The Black Dahlia Murder - Servitude
[Melodic-Death Metal]
Trevor Strnadの夭折を乗り越え、起死回生とも言える本作は、誤解を恐れずに言えば、背景やストーリー込みでの傑作だ。
バンドにもたらしたTrevor Strnadの喪失を婉曲的な表現で描く歌詞を読めば、どうしてもそこは切り離せないし、慟哭するメロディアスなギターの奔流は悲しみに暮れるようだ。
本作は、彼らの作品の中でもトップクラスにギターに主眼を置いたものになっている印象だ。
Trevorのあらゆるレンジのスクリームを使いこなすスタイルと異なり、Brian Eschbachはある意味で愚直。だが、猟奇的な雰囲気はあり、力不足感は一切ない。
本作における最大の立役者は、再加入したRyan Knightが弾く、咽び泣くような美しくメランコリック、そしてどうしようもなく獰猛なギターだ。
バンドの核は未だ脈々と生きている、それを突きつける一枚。
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Bring Me The Horizon - POST HUMAN: NeX GEn
[Metalcore / Experimental / Alternative Rock]

デスコアを出発して、スタジアムロックのポピュラリティとダイナミズムを取り込み、異次元に着地した。
それは、エクストリーム・ミュージックが凶暴性やヘヴィネスを削ぎ落としすぎず、大衆性を体得した瞬間とも言える。例えば、「Kool-Aid」のようにハンドクラップを煽るキャッチーなコーラスから凶悪なスクリームを入れ込んだ狂気的なブレイクダウンは彼らの出自を考えれば納得のパートであるし、AURORAが可憐な歌声を添える「kiMOuslne」には、ニューメタルの感性とアブストラクトな視座が混ざっている。
20年培ってきた方法論が惜しみなく注がれ、聴く者に中毒を喚起する様は見事だ。次世代のフレッシュさと言うよりは、紆余曲折を経た老獪さをむしろ強く感じる。
エクストリームメタルとポップスの狭間を突く強靭で美しい一枚。
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BUCK-TICK - スブロサ SUBROSA
[Rock]

昨年の悲劇から1年と少し。そんな早さで届けられた本作は、不在の寂しさや悲しさを曖昧にせず、真っ向からぶつけて昇華に向かう一作である。
絶対的フロントマンだった櫻井敦司の支配的な歌が存在しないため、それを逆手に取ったリズムやノイズ、電子的な音作りを中心にしている。つまり、踊れるロックとして元来彼らに備わっていたダイナミズムやグルーヴ、ノイジーな音の散弾が軸なのだ。
ギターロックや歌謡といった側面より、キーボードを主軸にしたディスコパンクやインダストリアルの素養が表出しているということだ。
だが、「絶望という名の君へ」や「プシュケー - PSYCHE -」のように櫻井敦司のヴォーカルが乗っていてもおかしくないほどの歌を封じ込め、「BUCK-TICKという歌を大事にしてきたロックバンド」としての健在を示す佇まいに脱帽だ。マッドチェスターやインダストリアルといったメンバーの音楽愛を注ぎ込む「雷神 風神 - レゾナンス」のみならず、いないはずの櫻井敦司の歌声が寄り添う感覚すらある。
とは言え、まさに新生、BUCK-TICKという新しいバンドの産声であり、狂気が軛から解かれた印象だ。
現在のBUCK-TICKに「できること」「しかできないこと」「できなくなったこと」を的確に見据えた、生のポジティヴで狂ったエネルギーに満ちた一枚。
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Buñuel - Mansuetude
[Alternative / Noise Rock]

何と暗く怒りと生のエネルギーに満ちた音楽か。
OxbowのEugene S. Robinsonが叫び喚き歌い上げる漆黒のノイズロック。Converge、The Jesus Lizard、Cough Slutのメンバーを招聘し、憎悪と憤怒と混乱渦巻く奈落へ聴く者を誘う、暗黒を体現したグルーヴを構築する。
インダストリアルやハードコア、ヘヴィメタルからフリージャズまでをも蹂躙し、時にThe Young Gods辺りを彷彿するパートもある。もちろん、帝王The Jesus Lizardに勝るとも劣らない重厚感のあるギターリフもちりばめられている。
どの曲にもフックがあり、口ずさめるほどキャッチーだ。エモーショナルでハイテンションな、躁鬱飲み込んだ異様さは形容し難い。
怪鳥の叫びのようなスクリームも、脳髄にこびりつく。図太くも的確に撃ち込まれるドラムはソリッドで、ビートミュージックがごとき肉厚さをも体得している。
「穏やかさ」を意味するアルバムタイトルとは裏腹に、どこを切り取っても喧しく、不穏で、狂気的だ。
内なる不満を解放する供に相応しいダークなエネルギーと情熱に満ち満ちた一枚。
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Cages for Preachers - The Sleep That Knows No Waking
[Alternative Rock / Hard Rock]

Black SabbathAlice In Chainsの因子を強烈に感じる俊英のデビュー作となる。
ブリティッシュハードらしい豪胆さと繊細さを持つ筆致はもちろん、ドゥーミーな重厚さで聴く者を深い深い底まで引きずり込む。
グランジのざらつき、メタルコアを源泉とする若くしなやかな暴力性が、軽やかとすら言える聴き心地に説得力を持たせる。
丹念に重なるリフの心地良さに加え、要所要所で炸裂するグロウルやブレイクダウンは、呪術性を湿っぽくさせすぎないギリギリの線で若さを保っている印象だ。
そのため、メタルから吸い上げたしなやかで筋肉質なグルーヴが映えている。
これは、イギリスの中堅となったThe Wytchesとも全く異なる余韻を持つ。舐め回すような艶やかさと妖しさを放射するヴォーカルも見事だ。
臓物に昏い熱を染み渡らせる黒く妖艶な一枚。
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Crushuman - Crushuman
[Death Metal / Grincore]

様々な要素がごった煮になった作品だ。
Cannibal Corpse、Obituaryといったベーシックなデスメタルを基盤に置いているが、TerrorizerやSuffocationも見え隠れしている。
「Code Grey」の突発的なドラムンベースにはGodfleshからの影響も見えるインダストリアルメタルの様相が面白い。と思えば、Kornらニューメタルからのフィードバックもあり、鈍い鳴りだがキレ良く跳ね回るリフや溜めでグルーヴィーなノリが快楽的だ。
最終曲の無音パートには、要不要はともかくとして、90年代の名残を感じるだろう。
後半になればなるほど加速したスピーディーな曲が目立ち、アルバムとしての構成もしっかり練られているのが伺える。
スタイル的な面白さだけではなく、ストレートにかっこいいデスメタルとしても楽しい一枚。
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The Cure - Songs of a Lost World
[Gothic Rock / Alternative Rock]

全ての孤独に寄り添う優しき帝王の帰還
細かい部分にまで気を配った豪奢なプロダクションに裏打ちされた、バンド自身の健在振りを示す作品だ。
前作『4:13 Dream』よりもヘヴィで重厚な音塊は、『Bloodflowers』や『The Cure』を彷彿させる。だが、本作の手触りはどこまでも滑らかだ。ゴツゴツと荒々しいパートもなくはないが、引っかかりを覚えるほどではない。
それは、本邦のヴィジュアル系や多くのダークなヘヴィメタルのバンドたちに多大な影響を及ぼした、The Cureのみが持つ「重たさ」に他ならない。全体的に、デビューから連綿と続くThe Cureのゴシカルで優美な佇まいから大きく逸脱しない。帝王の絶対的安心感が作品の孤独感を担保する。
Robert Smithから滲み出す孤独感はどこまでも優しく、だからこそ唯一無二なのだ。改めて、そんな当たり前のことを再確認できる一枚。
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Dark Horizon - Darkness Falls upon Mankind
[Melodic-Black Metal]

12年振りの新作は、アトモスフェリックな筆致が濃かった前作と比較して、完全にメロディックブラックメタルにシフトしている。
NaglfarやMithotynのカバーを入れ込む辺り、意図して90年代メロディックブラックメタルを蘇らせようとしているようだ。
Andy Classenによるブルータルなミックス調整も相俟って、硬質で妥協のないエクストリームな手触りを手にしている。そこにジャーマンブラックならではのやりすぎなほどの叙情性を捩じ込む。
そのため、「速い✕メロい✕邪悪!」なメロブラのお手本のような様式を提示しているのだ。
ロディアスなギターを主眼に置いているため、グリムヴォーカルを除けばパワーメタルやメロスピが好きな人にもスッと入り込むレンジの広さもある。とは言うものの、本作はブラックメタル以外の何者でもない。
青く鮮やかに色づく古城から魔王が現れ出でそうな一枚。
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Dea Matrona - For Your Sins
[Rock / Pops]

朴訥なカントリー、抑制されたリズムを刻むロックンロール、爆発するようなギターを堪能できるガレージロック、それら全てをポップで可憐にまとめ上げる手腕に唸った。
全体的にソリッドでミニマルな音作りで無駄の一切を排除しているにも関わらず、質感は華やかでゴージャス。ポップの極みである。キャッチーさも鼻にかからず、スッと脳内に染み込むレトロスペクティブな感覚も心地良い。
Orláith ForsytheとMollie McGinnのコーラスの分け合いも一層華やかさを補強しているのだ。両者ともの気怠く艶めかしいヴォーカルとソリッドなビートがフロアを揺らす「Stamp on It」を聴けば、物憂げで官能的なロックンロールが素地にあるのがわかるだろう。
華やいだ雰囲気と艶やかな質感が見事に結実した、サテンのような肌触りに包まれる一枚。
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Demersal - Demersal
[Hardcore]

青白く燃える焔と激情のハードコア。
ネオクラストの残り火とskramzの煌めきを併せ持った本作は、極めて圧の強い、整合性と衝動性を持ったハードコアだ。
繊細な筆致のアルペジオ等を盛り込むフラジャイルな少年性と、暴発する衝動を抱え込む狂熱は、クリアなプロダクションであっても殺がれることはない。息をも吐かせぬリフの多さに負けじと、情熱的な歌をしっかり聴かせてくれるのも喜ばしい。
Convergeに通じるところもTenueやTragedyに接近するところも多い。極めつけは情感豊かなサックスの雄弁さだ。
ジャズに類する要素は、このサックスによるものだが、あくまで自身のカオスを補強するものとして配置しているのも頼もしい限りだ。雄々しくも今にも咽びそうなスクリームは悲痛さもある。
冷静と情熱の狭間を激しく、そして繊細に揺れ動く一枚。
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Frail Body - Artificial Bouquet
[Hardcore]

感情を漂白するほどの音の壁。本作の第一印象はそれだ。
全ての楽器がほぼ同位相に配置され、クリアなのだが隙間なく敷き詰めた狂気に全身を貫かれる。オープナー「Scaffolding」から発散するエモーショナルなメロディーラインには、envyや明日の叙景といったバンドの面影がちらつく。全体的には、CovergeというよりはLoma Prietaの持つ激情感に近い印象を持った。
いわゆる「ウォール・オブ・サウンド」な轟音の中でも、くっきりと浮き上がるスネアの鳴りの影響で、塊になりすぎないソリッドな感触が伝わるのが特徴的だ。発狂するようなヴォーカルの中に、言いようのない哀しみが滲み、激情を通り越して慟哭の叫びのように伝わるのも興味深い。かといって、メランコリーとも少し異なるのだ。
激情ハードコアからポストブラックメタル/ブラックゲイズまでを蹂躙するような暴力性がたまらない一枚。
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The Funeral Portrait - Greetings From Suffocate City
[Emo / Post-Hardcore / Loud Rock]

8年振りのフルアルバムとなる本作は、デビューアルバムである前作から恐るべき変貌を遂げた。
叙情派ポストハードコアの色が強かった前作と比べ、シアトリカルでキャッチーなニューメタルの薫りも漂うスタイルへ完全に変化。そのため、スピーディーで衝動的なハードコア・パンクの要素は大きく減退。シアトリカルというキーワードから想像できる、QueenMuse、もっと言えばMy Chemical Romanceの『The Black Parade』の流れを汲む戯曲的な作品だ。
Lee Jenningsの声の太さや技巧は、8年前と比較にならない。エモーショナルだがエモらしいヴォーカルでなくなっていることに賛否あるかもしれないが、より鮮やかに、より情熱的に歌い上げる。その歌を支えるエレクトロなラウドロックの採択は功を奏している。
絶対的な歌の巧さに全てを託し、自信が伺える一枚。
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Gaerea - Coma
[Melodic-Black Metal / Post-Black Metal]

蜃気楼を越えた先の昏睡。
本作は、前作『Mirage』を踏まえた上でより緻密さを増したメロディーラインや、ブラックメタル的でないリフの採用、聖歌コーラスの配合といった新味を追加していった印象だ。とは言え、全体を通して聴けば、明確にブラックメタルであるし、何ならMgłaに類する想像力の余白を残した神秘的なメロディックブラックメタルである。
だが、Harakiri for the Skyのような、暗鬱的だが凛とした鳴りのトレモロにはポストブラックの素養がそこかしこに息づく。そして何より、教会音楽のような神聖な雰囲気が脈打つ。
ただし、ゴスペルとも少し異なっており、ギターで表現したクワイアの荘厳さは聴く者の心を打って離さない。
バンドとしての存在感は、覆面と違って茫洋としておらず、さらに増した。カバーアートの鮮烈で不気味、神聖な雰囲気も本作に合致している。
エクストリームな攻撃性を落とさず、柔らかでメランコリックな筆致も美しい一枚。
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Gorebringer - Condemned to Suffer
[Melodic-Death Metal]

メロディック・デスメタルは、速さと親しみやすさが正義だ。
本作を聴けば、それを容易く信じられる。ロンドンの3人組Gorebringerの新作は、一発で心を掴まれるリフとギターメロディーのオンパレードだ。
元々キャッチーでスピーディーなメロデスを信条としているが、ゴアグラインドのようなカバーアートで煙に巻くようなところがあった。
それが、3作目にして、ようやっとメロデスらしいカバーを採用、視覚的な親しみやすさもぐんと増した。
「Under the Full Moon’s Pale Light」のブラストビートやキレのあるリフの応酬、「Théâtre of the Grotesque」の単音リフの疾走感に、メロデスファンの頬が緩むはず。トレモロによるブラックメタルに通じる邪悪な冷涼さも、叙情性を甘すぎない絶妙な塩梅にしているのだ。
爆発する芳醇なメロディーと爆走に否応なく頭を振る一枚。
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Gravenoire - Devant la porte des étoiles
[Black Metal]

Anorexia NervosaやBâ'aで名を知らしめたメンバーが結成したGravenoireの初音源。
本作はEPだが、EPだからこそアルバムコンセプトではなく、バンドのコンセプトを提示した作品になっている。それは、90年代の北欧ブラックメタルへの憧憬だ。
6曲25分、インストを除く4曲にはけたたましいスピードで駆け抜けていく曲が詰まっている。どの曲にも、Dissection、Necrophobic、Gorgoroth、Darkthroneといった古豪への敬意が詰まっている。
吹雪のようなトレモロのみならず、凛とした鳴りのギターを合わせ、ポストブラックにも通じる雰囲気すらある。Anorexia Nervosaを思い出す過剰にメロディックな暴力性が冴えている喜び。
最後を締めくくる寂寞としたナレーションに、EPながら緻密に計算し尽くした構成力を感じる。
ブラストビートの猛然とした体感を全身で浴びるような一枚。
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HAZUKI - MAKE UP ØVERKILL
[Rock]

前作と比較しても格段に自由度を増した。
ベースとなるメロディーラインやヴォーカルはlynch.で培ってきたHAZUKI印と言えるものだ。だが、ギター、ベース、ドラムで構築するlynch.とは明確な差異を生んでいる。それは、詰め込む音の密度だったり、エレクトロ処理を施したノイジーな暴力性と享楽性だったり。
「魔ノユメ」に代表されるような、lynch.でも得意としていたシャッフルビートは、さらに華やかに、ゴージャスに、いかがわしさを増した。
基盤には90年代のV系、ポストハードコア、メタルコア、ニューメタルが横たわっているが、「独りで魅せる」ことに注力していることがダイレクトに伝わる進化の仕方だ。「せーの」からのハイピッチスクリームは、lynch.では聴けない力の抜け方だ。
lynch.でやれないこと」を明確に示したカラフルな一枚。
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i Häxa - i Häxa
[Experimental]

不気味なカバーアートが示す通り、暗く裡に沈み込む音の奔流だ。
緩やかだが決して落ち着いてはおらず、絶えず不安を煽るノイズが三半規管を狂わせる。その中を、たおやかで優美なメロディーやヴォーカルがふわふわと漂う、そんな作品になっているのだ。
サウンドデザインは、Massive AttackやTrickyといったアブストラクトなトリップホップを採択し、Chelsea WolfeやJarboeといったアクトを想起する、暗黒に蝕まれた神経を露呈させるもの。
そのため、本作は闇夜に浮かび上がる恐怖や切迫を聴く者に提示する常軌を逸した世界観だ。樹木に侵食された怪物のようなカバーアートのモンスターに待ち構えられるような、一歩先の不穏当な闇がわだかまる音。にもかかわらず、ノイズの合間に流れるピアノの静謐さは、単純に美しい調べだ。
ゆえに、純粋に「怖い」と思わされる一枚。
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Ihsahn - Ihsahn
[Progressive-Black Metal]

自身が第一人者として築き上げたシンフォニック・ブラックメタルへの回帰というような印象をまず持った本作。
だが、単純な回帰というわけではなく、本作における「シンフォニー」には、かつてのようなギラついたオーケストレーションのみならず、室内楽のような雰囲気がつきまとう。一貫して優雅だ。
さらに言えば、Satyriconの『Live at Opera』のようなステージパフォーマンスを期待してしまいそうな音の広がりがまず心地良いのだ。かつては技巧的にも予算的にも実現できなかったであろう要素がそこかしこに仕込まれている。
Emperor時代のような激烈で邪悪な攻撃性は望むべくもないが、酸いも甘いも噛み分けた老獪さが喉元に突きつけられる感覚。そのため、メタルらしい攻撃性はしっかり担保されている。
本作は、先駆者による「シンフォニック・ブラックメタルの再定義」とすら感じられる風格がある。
ブラックメタルの寒々しい無明の闇ではなく、艷やかで優美な黒を堪能できる一枚。
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In Aphelion - Reaperdawn
[Melodic-Black Metal]

Necrophobicよりもさらに黒く深く、尖ってきた本作。
Sebastian Ramstedtの書くリフはNecrophobicよりも遠慮のない、DissectionやNaglfarを想起する寒々しいものになっている。
Kvltかと言われればそこまでRawさはなく、多くの人が馴染みやすいものだ。
ささくれ立つトレモロリフの重なりには神経に障る魔性が宿り、邪悪でケツを引っ叩かれそうな切迫感があるのも特徴。他方、丁寧に弾くギターフレーズや鐘のような鳴り物からは儀式的な空気感すら滲む。
まるで、閉め切ったはずの部屋から絶対零度の空気が漏れてくるかのような視覚効果さえ呼び起こされる。どの曲にも鮮やかで妖艶なギターソロに焦点を当てているのは、ギター主導のバンドだからか、というような雰囲気。
「The Darkening」のように、スウェーデンだけでなくノルウェーにも目配せした空気も、Sebastian Ramstedtのフリーク気質の賜物か。
ブラッケンド・デスメタルの覇者の一員を担ってきた猛者たちの視座が伺える一枚。
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Ingurgitating_Oblivion - Ontology of Nought
[Experimental-Death Metal / Brutal-Death Metal]

凄まじい進化を遂げたエクスペリメンタル・ブルータルデスメタルである。
5曲で約74分ぎっちり詰め込まれたボリュームがまず圧巻の一言。Defeated SanityのLille Gruberが叩く変幻自在のドラムは特に強烈で、どの節を切り出しても同じ拍を刻んでいない。
ベースにあるのはスラムデス寄りのブルータルデスだと想像できるが、満載した音の情報量が尋常ではない。
ブルデスやハードコアといった基盤は当然だが、ピアノ、フルート、ヴィブラフォンといったこの手のジャンルには馴染みの薄い優美な楽器が華を添える。
ドイツのシンガーAva Bonamを招聘し、女性ヴォーカルの凛とした美しさや、フォークトロニカ/ポスト・クラシカルの領域まで飛び出す静寂パートは、暴虐のブルータルデスに溶け合い、鮮やかなコントラストを生んでいる。
一癖も二癖もあるが、聴けば聴く者を甘美な猛毒に痺れさせる一枚。
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Inter Arma - New Heaven
[Atmospheric-Sludge / Post Metal]

カバーアルバム『Garbers Days Revisited』で自らのルーツを詳らかにした彼らの次なる一手は、源を踏まえての新境地だ。
今や初期のドゥームデス/スラッジの粗暴さはなく、ポストメタル/アトモスフェリックな筆致が際立つ、繊細で重厚、近未来的でSF映画サウンドトラックのような音像に仕上がっている。
特に、「The Children the Bombs Overlooked」の不穏さでコーティングしているが、ビームが飛び交うようなエフェクトの楽しさはその極致だろう。
ヴォーカルワークもグロウル、がなり、チャント、クリーンと変幻自在である。
何より、コロコロと転がるようなドラムのあまりにも抜けの良い鳴りが、底抜けの快感に引きずり込むのだ。にもかかわらず、どこまでも倦んだメロディーが、暗がりに聴く者を陰鬱な恍惚に呼び込む。
絶対強者としての存在感を示すような一枚。
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Jhariah - Trust Ceremony
[Dramatic-Pop]

「全方位型ポップ」とは、このような作品を言うのだろう。
ブルックリンの若き俊英Jhariah Clareの作品は、まさにそのような冠詞に相応しい。目の回るような超高速の展開を軸に、サルサ、ロック、メタル、ハードコア、はてはJ-Pop、彼が愛するアニメに至るまで縦横無尽に駆け巡る。
ゴスペルに通じるソウルフルなムードは生来の声質の影響もあり、とにかく先が読めないバブルガムなポップソングがひしめくのだ。かと言って雑多さは微塵もなく、非常に丹念に繊細な心配りがされている。
そのため、聴く者を難解さで煙に巻くようなことは一切なく、どこを削り出しても圧倒的なポップさに舌を巻く。
華やかでゴージャスだが、陽一辺倒ではなく、ほのかに心の闇に触れるような狂気的な一面もある。都会に住む者の性のようなものも感じる。QueenMuseに通じる大仰さも頼もしい。
不思議なのは、本作の音像は世界のベーシックな部分とは似て非なるところだ。
ベッドルームな雰囲気も残しつつも、スタジアムで聴けば圧巻のパフォーマンスが容易に想像できる一枚。
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Leprous - Melodies Of Atonement
[Progressive-Rock / Metal]

Einar Solberg自身のパーソナルな柔らかい部分を曝け出した『Aphelion』や彼自身のソロを経て、バンドの次なる地平となる本作は、いい意味で非常に力が抜けている。
『Malina』辺りから続く、Massive Attackなどブリストルサウンドをメタルに組み込むスタイルに変化はない。
だが、より細かく寸断するようなリズムの様相、「引き」を意識したようなギターのアンサンブルに、成熟したLeprousの姿が浮き彫りになる。近作強めてきたシンフォニックロックに接近する、優美で、背の産毛を撫でるような妖艶さはさらに板についている。
いつものように朗々としたEinar Solbergの歌唱は、時に祈りのように全身に染み渡る浸透力がある。
高揚感と不穏さを煽るキーボードと合わせると、一層艷やかだ。
全てをねじ伏せる力強さによる万能感すら時に放射する、聡明な若き皇帝としての風格が出てきた一枚。
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Mork - Syv
[Black Metal]

近年のノルウェーでは珍しく、王道とも言えるノルウェイジャン・ブラックメタルを追求するThomas Eriksen。
そんな彼のメインプロジェクトであるMorkの新作は、ブラックメタルの闇と背徳を敷き詰めたような雰囲気が満載だ。隙間を活かしたドラムだが要所要所で的確なビートを撃ち込み、何よりブラックメタルには珍しく官能的に這い回りよく動くベースラインが印象的。
ヴァイキングメタルにも接近するほど勇壮な「Holmgang」であっても陰鬱なベースが高揚に影を落とすのだ。
より原始的で生々しいブラックメタルUdådを始動したことにより、否応なく王道のブラックメタルの秘奥に触れるようなトレモロがたまらない。吹雪の寒々しさより黴臭い地下室の陰鬱さを、苦味走ったグリムヴォーカルが引き立てる。
牧歌的な締め括りもペイガンとは何かを語るような美しさだ。
トゥルーとは何かの一端に触れられそうな一枚。
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Múr - Múr
[Post Metal]

「コンテンポラリー・メタル」と自ら名乗る、アイスランドレイキャビク出身の5人組。
モダンではなくあえてコンテンポラリーと位置づけた理由は不明だが、アトモスフェリック・スラッジ(あるいはポストメタル)を核として、ブラックメタルデスメタルといった素養を混ぜ込み、EDMにも通じるぶわついた厚いエレクトロでコーティングしている。
爆走パートを設けたり、重厚だが鈍重ではない、プログレッシヴメタルとしての面白さもある。
そのため、複雑な構造を持つ楽曲に明確な攻撃性と推進力を持たせ、難解さは半歩後ろに下げている。さらに、流麗なギターソロまで織り込んでくる。それがたまらなくキャッチーなのだ。
熱っぽく歌い上げるクリーンの歌唱力の高さや器用に抑揚をつけるグロウルの獰猛さには、OpethやEdge of Sanityをも想起。
広大な氷河から分かたれた流氷群が、ぶつかり合いながら大海へと漕ぎ出すような一枚。
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Nea Selini - Une pluie incessante
[Post-Black Metal]

何たる鮮烈、何という衝撃。
本作は、一人の人間の音楽的源泉を、本人曰く限界まで引き出した作品である。
ベースはポストブラックメタル/ブラックゲイズだが、メロディックブラックメタルメロディック・デスメタルヴィジュアル系、J-Pop、激情ハードコア、EDMなど、ありとあらゆるルーツを一切の遠慮なく注ぎ込んでいる。
例えば、「Glass Doll」の冒頭こそSadnessにも通じる柔らかなアンビエントパートだが、雷撃のようにトレモロが切り裂き、目も覚めるような疾走感の中、様々な要素が目まぐるしく顔を出す。
さらにキャッチーで、非の打ちどころのないアンセムだ。膝から崩れ落ちるフラジャイルな感性を表現した「涙の痕 -Les traces de larmes」は、DIR EN GREYやthe GazettEの美しいメロディー感に連なる。LUNA SEAとAmesoeursがミックスしたような感触を持つ「L'amour illusoire」など、どの曲にも、彼の美意識を表出した美しさが際立っている。
興味深いのは、本作を聴いた日本人は、彼の聴いてきた音楽、つまり文化的背景を、フランス人は彼が現住しているパリの街並や歴史、つまり環境的背景を見出している傾向があることだ。
一人の人間の、現時点でのリソースを限りなく刻み込んだ、激情と哀感、そして自らを形成した音楽への敬意や愛情を惜しみなく感じられる一枚。
nea selini - Glass Doll | Atmospheric/Post Black Metal - YouTube




Necrot - Lifeless Birth
[Death Metal]

圧倒的な力と、少しくぐもったプロダクションが魔界の瘴気を思わせる、地獄から噴き上げてきたかのような作品だ。
前作ほど入り組んだ構造ではないが、ストレートな中に少しひねったリズムやリフを織り込むことで、独特のフックを持たせている。
それは前述のプロダクションかもしれないし、滑らかにリズムを切り替えて制動をコントロールするドラムの影響かもしれない。いずれにせよ、帝王Morbid Angelすら射程に入れ、虎視眈々と覇権を狙うかのような野心的な視座が何とも頼もしい。
本作における煮え湯で煮沸するようなグルーヴの快感は、彼らならではのものと感じられるのだ。
オールドスクールではあれど、一切の容赦のないブルータルなデスメタルの音像に、何度聴いても新鮮な高揚を感じるほど。
暗黒闘気渦巻く魔界の中から現出した、カバーアートの怪物のような絶対性を感じる一枚。
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Notturno - Our
[Atmospheric-Black Metal / Depressive-Black Metal]

丁寧に爪弾くギターは淋しげだ。
悲痛に咽ぶヴォーカルのみならず、どこを切り出しても血を流す痛切さに満ちている。
されどどこか牧歌的な雰囲気で支配されているため、ある種の二面性を感じるほどだ。
全体的に自らの源流であるデプレッシヴ・ブラックメタルの手法を取っており、ドラムの鳴りを生々しく前に出したプロダクションと相俟って、聴く者の負の感情を引き出してくる。
この生々しさは過去にはなかった。ざらついたディストーションギターの力強さと、神経を障るギターフレーズがどこまでも追い縋ってくる。
コケティッシュなヴォーカルだけでなく、凄絶なスクリームも的確に抉りにくる。
全体的な筆致は艶めかしいが、絶望と悲哀を刻んだ生々しさが胸を掻き毟る凄絶さも混在しているのだ。
人の心の静と動の触れ幅を、時にメランコリックに、時にヒステリックに描き上げた感傷的な一枚。
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Opeth - The Last Will and Testament
[Progressive-Death Metal]

Opethデスメタルに還ってきた。
本作の先行シングル「§1」を聴いた時は、純粋にそう思った。
だが、本作は単純な回帰ではない。Mikael Åkerfeldtの深いグロウルやエッジの効いたドラムを除けば、『Heritage』〜『In Cauda Venenum』で追究してきたプログレッシヴロックのフォーマットを崩しているわけではない。
『Sorceress』や『In Cauda Venenum』で注入された重厚さをそのまま継承しているため、『Watershed』以前の噴き上がるようなデスメタルの攻撃性をそのまま揺り戻したわけではない。
とは言え、滑らかに静と動が交錯し、妖艶で凶暴だったかつてのOpethはしっかり健在だ。
くっきりと明瞭な音響も、躍動感に拍車をかけている。
耽美なゴシックメタルとしても一層説得力を増し、変わらず唯一無二の存在感を示す一枚。
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sinema - Fear of the Fall
[Hardcore / Skramz]

テキサス出身のハードコア/skramzのデビューアルバムは、何の衒いもないエモーショナルな衝動をぶち撒ける。
初めて楽器を手にし、スタジオで目一杯の音量で鳴らした時のあの万能感。そういった原風景を眼前に甦らせる、そんな作品だ。
90年代エモやニュースクールハードコアを聴いて育ってきたんだろうと想像するに難くない。
青白く繊細なクリーン・ヴォーカルと吐き捨てるスクリームのミックスには、MineralやGlassjaw辺りの爽やかな筆致と、xEdenisgonex辺りの少年らしい無軌道な凶暴さが見事に合致する。
テンポを落としたブレイクパートには、Eliot Smithのような今にも崩れそうなフラジャイルな感触が宿る。
ここにはジャンルの越境性や革新性など、そういった視線は存在しない。
しかし、無性に懐かしいのに不思議と新しい。これは自分たちの鳴らす音への信頼や自信に曇りがないと信じられるからだ。だから鋭い。
初期衝動の塊のような、今にも暴発しそうな一枚。
https://youtu.be/iDMUAfE6Ttg?si=kbq75CdcRMmTClSU




Slechtvalk - At Death's Gate
[Symphonic-Black Metal]

コープスペイントではなくバトルメタル的風貌の、オランダ語で「隼」を意味する3人組による8年振りの新譜はとにかく勇壮である。
アンブラックメタル(クリスチャンブラックメタル)特有のキリスト教に主眼を置いたテーマなだけあって、厳かな神聖さが濃く出ているのは変わらず。
ただ本作はとにかくドラムが苛烈で、どの曲にも強烈な速さのブラストビートがある。トレモロが冷たく吹き荒ぶ様、聴く者を鼓舞する勇猛なメロディー、Borknagarにも比肩するヴォーカルレンジの広さが過去作と比べ物にならないくらい印象的だ。
加えて明瞭で分厚いプロダクションが、彼らの雄々しい佇まいをさらに浮き立たせるのだ。
神聖な雰囲気強めと言っても、グリムヴォーカルは邪悪な迫力満載だ。
「Paralysed by Fear」や「Death」の、邪悪な軍勢による緊迫感溢れる勢いが目に浮かぶような高速リフには、手に汗握るシネマティックなストーリーが息づいている。
エピックブラックメタルと名乗るだけある、獰猛さと壮大さを併せ持つ、絢爛豪華なオーケストレーションも鮮やかな一枚。
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THE SPELLBOUND - Voyager
[Rock / Pops]

何と力強い歌声とメロディーか。
前作が「はじまり」から「おやすみ」を描いた一日の肯定であるなら、本作は聴く者の旅路をガイドするナビゲーターである。
ポップアルバムだった『THE SPELLBOUND』から格段にエッジと推進力を増し、アグレッシヴとすら言えるほどのアッパーな感覚を宿した完全無欠のロックアルバムだ。
それでいて、BOOM BOOM SATELLITESが持ち合わせていた先鋭的な「踊れるロック」と、小林裕介のロマンティックな視点が見事に噛み合い、バンドとして一つにまとまった万能感すらある。
肉体にアクセスするビートの躍動感に、溢れんばかりの祝福を加味した本作は、前作よりもTHE SPELLBOUNDというバンドの核を強化したと断言しても過言ではないだろう。それほど、両者の遠慮がなくなった。
ただ単純にかっこいいリフが詰まったロックの純粋な姿がここにある。
前作同様、弱さも何もかも包みこんでくれる光もここにある。すべてがここにある。
抑圧から解放してくれる、「やさしい」「たのしい」が詰まった旅へ連れて行ってくれる楽しい一枚。
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Sumac - The Healer
[Sludge / Post Metal]

「癒やす者」というタイトルとは裏腹に、ただひたすらに鈍く圧殺するような音像で、聴く者を轢き潰すかのような暴力性だ。
Aaron Turnerの思索の変遷は常人にはわからないほど時々難解であるが、本作にはいくらか歩み寄っているかのように感じる素振りがある。
灰野敬二とのコラボレーションを経て、純粋なオリジナルアルバムである本作は、「World of Lights」の長大な26分に代表されるように、スラッジ、デスメタル、ハードコア、ポストメタル、ドローンと多くの旅路を経由、または撹拌する統一性を持つ。
不規則性と規則性を行き交うドラムの思考実験にせよ、憤怒に吹き出すヴォーカルにせよ、Sumacという生命体にブレはない。
シンプルなリフの積み重ねが効く「Yellow Dawn」の暴発は、彼らの肉体性を遺憾なく発揮する。
肉体と精神の揺れ動きがパッケージされた、思慮深い一枚。
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swancry - 幾つもの祈りへ
[Hardcore / Skramz]

どこまでも澄み切った痛切。白んだ痛切の先にしかない浄化。
身を切り、じくじくと滲んだ血を吐き捨てるような叫びは、テクニックやそういった次元のものではない。とは言え、叫びにも様々な違いをつけ、バリエーションがある音楽的な面白味もある。
叫びに寄り添い、時に引き立てる優しいギターは、陰影に富んだディレイだったり、トレモロだったり、非常に美しい。
slowdiveやenvyといった素養を感じるだろう。こう書けば落ち着いた、と錯覚するかもしれないが、本作は激情ハードコアを源泉にしているだけあり、極めて無軌道でアグレッシヴだ。
少し舌っ足らずなクリーンの清廉さや艷やかさに、ポップでエモの余韻を残しているのも印象的だ。
この声の影響で、00年代のアニメやゲームソングを想起する点も特筆すべきだ。
また、world's end girlfriendが用いるポエトリーのような朗読の表現も効いている。
自身を認めるための内省を凄絶な叫びとして放射する一枚。
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武田理沙 - Parallel World / パラレルワールド
[Experimental]

彼女が描き上げた世界の何たるカオスなことか。
矢継ぎ早に広がっていく世界は、クラシック、ロック、メタル、ハードコア、ジャズ、アニメソング、歌謡曲、J-Pop、エレクトロニカ、ノイズ、あらゆるものが爆縮し、撹拌していく。
あたかも、『ファイナルファンタジーVIII』後半の、時間圧縮して混沌と化した世界のようでもあるし、殺伐とした現実世界をそのまま投影しているようでもある。狂気を制御することなく超高速で暴走するビート、耳をつんざくようなエレクトロやギター、シンセサイザーは聴く者の精神を分裂するような作用をもたらす。にもかかわらず、どうしようもなくポップ。
ゆえに、劇薬。彼女の歌声もポップに歌い上げる側面だったり、コラージュのように貼りつけられたような感覚になる無機質さだったり、ディズニーのサウンドトラックのような囁き声だったり、よりマニアックな方向に広がる。
正気と狂気のパラレルワールドに突き落とされるような一枚。
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Thou - Umbilical
[Sludge / Drone / Doom Metal]

Emma Ruth Rundleやמזמורなど近年はコラボレーションアルバムや編集盤といった作品群が多く、純粋なオリジナルアルバムは実に6年振りとなる。
コラボ作品でも彼らの暗黒グルーヴに引きずり込まれる世界観は健在だったが、単独を冠する本作ではさらに凶悪に、されど滋味豊かな音像を磨き上げた。
不穏さと恐怖を煽るノイズエフェクトはほどほどに、荒々しく生々しいリフによる極悪スラッジはもはや孤高の領域だ。
グツグツと煮える地獄の釜のごとき演奏、壮絶なヴォーカルが波状に襲いかかるスラッジは実にエモーショナルだ。
新加入のTyler Coburnによる豪胆なドラムもよくバンドに馴染む。
ドゥーム/スラッジの真綿で首を絞めるようなスロウさだけでなく、無軌道に激情を叩きつける速い曲もあり、統一感と多彩さを共存させた作品でもある。
無明の暗黒世界に突き落とされる快感に酔い痴れる一枚。
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Vrykolakas - Nocturnal Dominion of Death
[Death Metal]

90年代から活動するシンガポールの重鎮デスメタルによる新作。
DeathやMalevolent Creation、はたまたBolt Throwerの因子を受け継ぐスタイルは健在だ。
音が整理されて聴きやすいデスメタルだった前作とは対照的に、本作は非常にゴツゴツしたブルータルな手触り。ドラムのプロダクションが特に良く、抜けと粒立ちの良いブラストビートやスネアの小気味好さまで存分に聴きとりやすい。
そのため、圧の強い暴虐性に一段と拍車がかかった。そればかりか、一瞬に切り込む流麗なギターのフレージングがとにかく鮮やかだ。
一瞬と言っても印象的なメロディーを紡ぐため、耳に残る。
メロデスほど前面に出さない一過の叙情性は、グルーヴィーで邪悪なリフの隙間からでも存在感が強い。鼓膜を揺らす圧の強さも見事。
温故知新、古豪の風格漂う強靭な一枚。
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Wormwitch - Wormwitch
[Black Metal / Crust]

強靭なリフ、一切撓まないブラストの苛烈な暴力性。
セルフタイトルを冠したカナダの暴君Wormwitchの新たな牙はいたってシンプルに、聴く者の首筋を的確に穿つ。
元々備わっていたクラスト由来のざらついた質感を残しているため、Rawにも近い手触りを体得した。
基本的には辛口で、メロウなギターは控えめだ。だが、ここぞというところで叙情性を爆発するトレモロが、漆黒のブラックメタルに華を添える。
塊として押し寄せてくるリフの重量感の隙間から立ち昇る、隠しきれない妖艶さが脳髄を侵食してくる快感。
この辺りの異形な黒さに、レーベルカラーを反映しているような邪推もできる。とは言え、豪胆な暴力性の発露は、従来のWormwitchをさらに研ぎ澄ませたもの。
「Inner War」のリリシズム溢れるアルペジオから繋がる古城で荒ぶるようなグルーヴ感溢れる演奏には、否応なしに身体が反応するだろう。
邪悪にほくそ笑む豪快な一枚。
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Yovel - The Great Silence
[Black Metal]

一見してブラックメタルとは思えないポップで強烈なカバーアートである。
オープナー「Scroll. Post. Like. Die」のタイトルからして、SNS社会を痛烈に批判した歌が鮮烈。音に丸みが生まれ、独特の音響から、アトモスフェリック・ブラックメタルへの歩み寄りが伺えるスタイルに変化した。
だが、従来同様パワフルで、ある意味パンキッシュな衝動性が耳を引く。とは言え、基幹に根を張るのはDarkthrone近辺を思い起こすサウンドデザイン。
プログレッシヴと呼ぶには粗暴でぶっきらぼうだが、丹念にリズム感を変えていく器用さに舌を巻く。
ブラックメタルらしいがなり声だけでなく、伸びやかなクリーン、おそらくはゲスト(あるいはサンプリング)の女性のスポークンワードが、厭世感漂うトレモロと噛み合って独特の空気を構築しているのだ。
様々な社会の闇が蔓延する現世に倦んで、毒を吐く男の述懐が胸を衝くだろう一枚。
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▼所感▼

今年は色々ありました。いいことも悪いこともありました。
今年のラインナップは、自分の鬱屈や怒りが詰まっているような感覚にもなりますが、どれも素晴らしい音楽で救われました。
さて、来年は初頭に共著で『メロディックブラックメタル・ガイドブック』を刊行しますので、よろしくお願いします。
来年もまたいい音楽にたくさん出会えますように。
皆さんもよい一年になりますよう、ご祈念申し上げます。