むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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2021ベストアルバム40

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毎年恒例のベストアルバムです。
36枚選ぶつもりだったのですが、40枚選んでしまっていました。
では、お楽しみください。



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・Amenra - De Doorn[Crust/Sludge/Post Metal]
澱みすらも透徹した雰囲気に織り込む凄みを感じる暗黒感。決してわかりやすい作品ではないが、悲痛な絶叫と憂鬱なメロディー、囁きのようなポエトリーリーディングは密やかな世界を聴く者と共有しているようで、背徳感がへばりつくようにつきまとう。静と動を繰り返す胎動のような蠢きは弛緩と緊張を強いるため、リスニングには体力を要するだろう。だが、リフ自体はメタル然としたキャッチーさも感じられるし、ある程度の躍動感もソリッドで、身体をゆったりと揺らせるには実は最適な一枚。
AMENRA - De Evenmens (Official Music Video) - YouTube



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・An Autumn for Crippled Children - As the Morning Dawns We Close Our Eyes[Post Black Metal]
いつもと同じ作風だと思うなかれ。オランダのミステリアスな3人組による最新作。ここ近作のエレクトロ・シューゲイザーのような感触は減退している。軽やかなドラムに乗せて、オーガニックな感触で吹き荒れるトレモロが奏でるセンチメンタルなメロディー。少々可憐が過ぎる印象も受けるが、絶叫するヴォーカルを聴けば、An Autumn for Crippled Childrenであることがわかるだろう。ジャケットのように冷たい雪の上を踏みしめるようなメランコリアが胸を衝く一枚。
AN AUTUMN FOR CRIPPLED CHILDREN - CAREFULLY BREATHING (OFFICIAL AUDIO) - YouTube



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・And Now the Owls Are Smiling - Dirges[Post Black Metal]
哀歌を意味する『Dirge』というコンセプトがまずあり、タイトルを追っていくだけでもストーリー性の高い、膝を折るメランコリーを放射していることがわかる。執拗に繰り返されるトレモロのフレーズはデプレッシヴ・ブラックメタルの名残を存分に残しており、とにかく暗い。悲嘆に暮れる絶叫ヴォーカルと合わさると尚暗い。そこにブラックゲイズに寄せたような儚い轟音が乗るため、何とも言えない悲しみが去来する。キーボードの麗しさが、どこか光を感じさせて幕を引く一枚。
AND NOW THE OWLS ARE SMILING - DIRGE IV: SOLITUDE (OFFICIAL VIDEO) - YouTube



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・Autokrator - Persecution[Death Metal/Black Metal]
フランスはパリ出身の2人組が表現する禍々しさに満ちた凶悪なデスメタルはますます過剰さを増した。Benightedの鬼神Kévin Paradisをゲストドラムに迎えており、腹に溜まる速射砲のようなドラムがこれでもかと堪能できる。闇を身に降ろしたようなギターの分厚さはもちろん、獣のように唸り、噛みつくヴォーカルの獰猛さが素晴らしい。どろりと粘性の高いグルーヴによるドゥームデスかの如き暗黒空間はもちろん、スラムデスにも肉薄するダウンパートの凶悪さも加味されて、最後の何かを召喚するようなアンビエントに横たわる無明の呪文に至るまで、威厳に満ちた手のつけられないブルータリティにドタマをぶん殴られる一枚。
AUTOKRATOR - DCLXVI (Official Audio) - YouTube



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・Blankenberge - Everything[Shoegaze]
確固たるポスト・ブラックメタル/ブラックゲイズのシーンが築かれているロシアはサンクトペテルブルク出身のシューゲイザーバンド。今作で3作目となるが、順当に刷新を遂げており、いよいよブラックゲイズに匹敵する圧の強いドラムも体得した。それでいて現実感を消失する美を煮詰めたようなフィードバックノイズは、Yana Guselnikovaの優しく包み込む囁きと相俟って精神をどこか遠くへ誘ってくれる。メランコリアを超え、光り輝くユートピアに連れていってくれるような一枚。
Blankenberge - Everything (Music Video) - YouTube



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・Blanket - Modern Escapism[Post Metal/Metalgaze]
イギリス発、柔らかさや冷たさを同居したドリーミーなヘヴィ・シューゲイザーとも形容できるポストメタルの一大絵巻。JesuやCult of Lunaはおろか、Oceansizeからの影響もそこかしこに感じる。重圧感のあるベースラインが確固たる骨格を築き上げ、幻惑的なヴォーカルやメロディーが凛としたプロダクションで夢と現実の境目を希薄にするよう。ソリッドなドラムで鋭く聴こえる立体的で複雑なリズムアプローチ。かつてメタルゲイズと言われていた頃のポストメタルの潮流を最新版にアップデートしたかのような一枚。
Blanket - Where the Light Takes Us (Official Video) - YouTube



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・Circuit Des Yeux - -io[Alternative/Pop/Electro]
華やかなでクラシカルなチェンバーポップに、中音をふくよかに聴かせる卓越した中性的な歌声を乗せるHaley Fohrによるプロジェクト。華やかさだけでなく、時に恐怖を煽るような圧の強いノイジーなエレクトロニクスを織り交ぜ、霊性を強める演奏が魅力的。戯曲のように優美に展開していく幽玄さは、Scott Walker、あるいはDanny Elfman、Antony & The Johnsons期のAnohniへの彼女なりのアンサーのようにも感じ取れるだろうか。息を呑むような静寂に狂気を感じ取れる一枚。
Circuit des Yeux - "Vanishing" (Official Music Video) - YouTube



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・Cynic - Ascension Codes[Progressive Metal]
早逝したメンバーを悼んでの鎮魂歌という意味はもちろんあるだろうが、今作はPaul Masvidalの決意表明とも受け取れる充実作となった。無論、Sean Malone、Sean Reinert不在の寂しさはつきまとう。だが、Cynicとしての音の強度やトレードマークとしてのヴォコーダーなどは健在であり、ソフティスケイトしていた近年と比べても非常にメタリックな強度が強い傑作である。最初から最後までSEを挟むことで、Cynic特有の現実感の乏しいSF的な世界観もしっかりと演奏に刻み込まれた一枚。
CYNIC - "Diamond Light Body" (Official Music Video) 2021 - YouTube



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・Danny Elfman - Big Mess[Alternative/Various]
90年代David Bowieの『Outside』を現代にアップデートしたというような印象をまず受けた。Nine Inch Nailsらに影響を受けたノイズの使い方や彼自身のリソースでもある戯曲家的な歌伴の独特さが才気爆発といった様相で提示される。そのため、今作はコロナ禍のカオスを封じ込めたというようなナイーヴなものではなく、彼自身が新たな表現を体得したという歓喜に満ちたハイテンションでハイエナジーなものに仕上がっている。故にボリューム過多で胃もたれ起こしかねないが、ただただ「芸術は爆発だ!」と言わんばかりにハイボルテージな情報量に身体を預けたくなる一枚。
Danny Elfman - "Kick Me" (Official Video) - YouTube



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・Dark Fog Eruption - 忘却と絢爛の幻想[Black Metal]
長野県で活動する正体不明のブラックメタルバンドによる2作目。今作の素晴らしいところは、ヨーロピアン・ブラックに近しい冷たい絶対零度トレモロと、日本のバンドらしい叙情豊かなメロディー。そして、太く聴く者の身体を揺らせるベースラインの躍動感。邪悪さはいささかも揺らがないが、宗教的な儀式の雰囲気というよりプリミティヴな雰囲気も色濃い。かと思えば、密教的な妖しさを引きずり出してくるのも憎い趣向だ。物悲しいドラマ性を感じさせる猛吹雪を想像させるトレモロ、威厳を感じるヴォーカルの表現力が遺憾なく発揮された一枚。
➤ DARK FOG ERUPTION - Eternal Nightmare-☠(TRACK PREMIERE 2021)☠ - YouTube



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・DSKNT - Vacuum γ​-​Noise Transition[Dark Ambient/Noise/Black Metal]
アンビエント/ノイズブラックの帝王Darkspace、フレンチブラックの覇者Deathspell Omegaからの影響を節々に感じる、無明の暗黒空間に放り出されるような作品。残虐なトレモロとノイズ交じりのドラムの圧の強さ、Behemothのように威厳を感じさせるヴォーカルワークとどれを切り取っても凄まじい完成度。大曲志向ではなくコンパクトに曲を構築しており、適度に展開させることで聴き疲れも起こさせない親切設計。ノイジーで情緒のあるメロディーはなく、辛味の効いたブラックメタルとしての矜持も感じる。どこまでも追いすがってくる恐怖と不穏を耳から体感できる一枚。
DSKNT - "Θ-Noise - Phase Shift" (Track Audio) - YouTube



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・Earthshine - My Bones Shall Rest upon the Mountain[Atmospheric Doom Death Metal/Post Metal]
オーストラリアのウォーナンブールを拠点にしているバンド。今年はドリーミーな要素を持つデスメタルが群発しはじめる兆候があった1年だったが、今作もそれに連なる作品。ブラックメタルにも通じる要素もあるため、アトモスフェリック・ブラックメタルとしても堪能できるが、これはドゥームデスにシューゲイザーを注入したそれだけのアルバムである。また、ポストメタルとしても大きく花開いた印象で、前作にあったドゥームデスとしての狂性は若干減退しているのは事実だ。だが、後半に差し掛かってくるとノイジーに耳を削り取るリフも健在なのがわかるだろう。荘厳かつ邪悪、神々しさすら感じられるドゥームデスメタルを体現した一枚。
Earthshine - When I Die I Shall Return (New Track) - YouTube



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・Ed Sheeran - Equal[Pop]
新世代のスーパースターもこのコロナ禍によるメンタル的なダメージはあったようで、今作はそれがダイレクトに反映されている。とは言っても陰鬱な雰囲気はない。あくまで、パーソナルな部分をさらけ出したナイーヴな歌詞が増えたり、少しアンニュイな雰囲気を持つヴォーカルやメロディーだったり。そのため、前作と比較しても彼のルーツの一つでもあるパンクロックやエモの持つ物憂げな空気が若干多めに注入されており、それがいいバランスとなって作品を引き締めている。ただ、どんな音であっても芯はポップソングであるということが存分に感じられる一枚。
Ed Sheeran - Shivers [Official Video] - YouTube



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・Fetid Zombie - Transmutation[Death Metal]
これまでのプリミティヴでダイハードなデスメタルとは一線を画す、流麗なギターソロや麗しい女性コーラスをふんだんに盛り込みポストメタルにも接近したかのような音響で聴かせるサイケデリックでドリーミーな感触すら体得したUSデスメタル。随所でフィーチャーされたギターはNWOBHM辺りからの影響も感じられ、Mark Riddickのルーツに立ち返ったかのような印象もある。とは言え、デスメタルらしい重圧と殺傷力高めなリフ、獣のようなグロウルもしっかりアピールしており、極めて純度の高い作品に仕上がった。妖艶で禍々しい叙情性も色濃いため、黎明期メロデスが好きな人にもオススメの一枚。
FETID ZOMBIE (US) - Conscious Rot OFFICIAL VIDEO (Death Metal) #deathmetal #oldschooldeathmetal - YouTube



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・Fire-Toolz - Eternal Home[Various]
10世代の一つのバロメータでもある「過剰さ」は、とどのつまりこういうことなのだと思わせるに足る圧倒的な情報量とカオス。Fire-ToolzことAngel Marcloidが提示する今作の世界観は混迷を極める社会というよりは、SNSなどインターネットがもたらした膨大な情報に誰もが気軽にアクセスできる、という状況そのものなのかもしれない。現代のネット上にちらばるカオスを、彼女のフィルターで通した時、AORブラックメタル、デスコアやドラムンベースといった要素が一つの枠内に収まるのだろうということが伺える。一人の人間の見た世界を音に変換した時、世界はこんなカラフルでグロテスクな、そして美しいんだということを否応なく理解させられるような一枚。
Fire-Toolz - --ᐳ ¶rogressive --ᐳ ¶ath --ᐳ (official music video) - YouTube



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・Fuath - II[Black Metal]
Saorとしての顔が有名なAndy Marshallによる、邪悪で狂気に満ちたブラックメタルとしての創造性を発揮するプロジェクト。2作目の今作でもぶれることなく、絶対零度の闇夜の森を駆け抜けるブリザードのようなトレモロが遺憾なく吹き荒れている。Fuathにももちろんアコースティックで静けさに満ちたパートは設けられているが、Saorのそれとは異なり、夜の闇に対する畏怖を表現しているかのように冷たく妖しい。メロディアスなブラックメタルとしての完成度の高さに、90年代北欧ブラックへの憧憬をも封じ込められた一枚。
FUATH - Into the Forest of Shadows (Official Music Video) - YouTube



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・Garbage - No Gods No Masters[Alternative Rock/Pop]
彼女たちがポップクイーンとして栄華を極めた『Version 2.0』や『Beautiful Garbage』の頃に立ち戻ったかのようなエネルギッシュなエレクトロとオルタナティヴロックのアグレッシヴな邂逅が今作だ。Butch Vigのゴージャスなポップを作り上げるセンスも黄金期を彷彿とさせるし、Shirley Mansonの妖艶でキレのあるパワフルな歌声もますます冴え渡っている。前作で培ったアンニュイなエレクトロポップ風のメランコリックな雰囲気もスパイスとして効いているし、さすがの貫禄。ここにきてここまでアグレッシヴなロックアルバムを、往年のファンが望むようなサウンドアレンジで提供してくれるとは正直思っていなかった一枚。
Garbage - No Gods No Masters (Official Music Video) - YouTube



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・gato - U+H[Various]
東京のエレクトロバンドと銘打たれているが、様々なジャンルがミックスされ、非常に多い情報量を精緻に織り上げているアルバム。基盤となるのはエレクトロニカにはなるだろうが、ヒップホップ的なビートやラップ、アブストラクトな音処理、ソウルフルに歌い上げるヴォーカルといった要素が複雑に絡んでいる。それに加えて、昨今のMGKやjxdn、Yungbludらに接近した明らかにエモやパンクの爽やかなメロディーもきっちりあり、(sic)boy辺りとも共振する洒脱さもある。エッジの立ったビート感覚もメランコリックに聴かせる、30分に満たない短さながらも満足感のある一枚。
gato - ××(check,check) [Music Video] - YouTube



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・Gråtfärdig - Saturnine Nights[Depressive Black Metal/Post Metal]
アルバム全体を雨がしとどに濡らす、スウェーデンアメリカ、ロシアの混合バンド。デプレッシヴ・ブラックメタルを中心に据え、ジャズのようなドラムや、ゴシックロックあるいはポストパンクに連なる陰鬱なメロディーを組み込む。憂鬱さを煮詰めたようなトレモロの官能的なまでに美しい叙情性と、柔らかく歌ったかと思えば、嗚咽混じりに声を震わせ、断末魔の絶叫を迸らせる情緒不安定なヴォーカルがまさにデプレッションの極致。聴く者の気力を根こそぎ奪っていくような暗さをそうとは感じさせない洒脱なアレンジで聴かせる、ある意味では危険な一枚。
Gråtfärdig - Goodbye Innocence (Promo video) - YouTube



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・Hænesy - Garabontzia[Atmospheric Black Metal/Post Black Metal]
ハンガリーブダペストを拠点にする3人組の2作目。リヴァーブを効かせまくった極めて浮遊感たっぷりなトレモロと、キーボードをうっすら忍ばせ、声の限りを振り絞った絶叫とともに速いスピードで駆け抜けていく作品。GrozaやDer Weg einer Freiheit、Harakiri for the Skyといったバンドを彷彿とさせる儚いメロディーにアトモスフェリックな雰囲気。ほとんど無名だが、今作はユニークなギターワークも相俟って、代替品のききづらい作品に仕上がっている。暗黒でもない、されど(現実は善意だけでできてはいないというような)ほんの少しの邪悪さと冷たさを残し、幻想的な世界観を構築した一枚。
Hænesy - Fate of the Depth (Video Premiere) - YouTube



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・Heathen Deity - True Englirh Black Metal[Black Metal]
アルバムタイトルに「真の英国ブラックメタル」と冠しながらもAnaal NathrakhやCradle of Filthではないところに拘りを感じる。随所に北欧ブラック(特にWatain)へのリスペクトと影響を忍ばせ、圧倒的なテンションの高さで爆走していくアルバム。かと言って爆走のみではなく、叙情的な静けさと動的なアグレッションが入れ代わり立ち代わり波状攻撃のように襲いくるため、75分ある長さだが、冗長さと粗さを捻じ伏せるだけの勢いに満ち満ちている。20年越しのデビューアルバムなだけあって、底の底まで絞り尽くしたかのような一枚。
Heathen Deity - For the Nameless One: Shemhamforash (Track Premiere) - YouTube



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・ILLT - Urhat[Blackened Death Metal]
単なるプロジェクトと呼ぶにはあまりに力が入っている作品。SoilworkのBjorn Speed Strid、NileのKarl Sanders、MegadethのDirk Verbeurenらを招聘して制作された今作は、スーパーバンドと言ってもいいラインナップだ。面子的にもデスメタルメロデス、どこに着地したかと思えばブラッケンド・デスメタルということもあって、特にBjorn Speed Stridはほぼ全編グロウルで厳つく叫び続けているのがファンとしても嬉しいところ。黒々とした叙情に負けないアグレッションに満ちた演奏は、展開の多い今作でもだれを感じさせない瞬発力がある。このメンバーで今後もぜひ見てみたいと思わせるに足る一枚。
ILLT - Millennial Judas - YouTube



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・Impure Wilhelmina - Antidote[Post Metal]
デビューして25年という長きに渡る活動にして辿り着いた、耽美なヴォーカルと艶めかしいメロディーが立ち上る詩情豊かなアルバム。スラッジに近い地を這い回るようなグルーヴ感と、伸縮していくようなベースラインが心地好い。静寂さはもちろんのこと、肉感的なリフワークで自然と身体を揺らせるフィジカルの強さも素晴らしい。ポストロックとポストメタルの中間を行き交うスタイルはいつものことだが、今作はいつにも増してメタリックでキャッチーな美しさも映える一枚。
Impure Wilhelmina - 'Gravel' (official music video) 2021 - YouTube



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・Kanga - You And I Will Never Die[Electro Pop]
麗しいヴォーカルとインダストリアル/EBMの洗礼を受けたかのようなダークウェイヴとエレクトロポップの邂逅。Godflesh辺りも視野に入れたかのような、重厚で圧迫感のあるエレクトロビートにChvrchesを彷彿とする可憐でポップな歌やシンセサイザーを合わせており、非常にわかりやすい。声質の透き通った美しさもさることながら抑制したヴォーカルには、凛とした魔性がある。グルーヴィーな低音で自然とノらせる肉厚感もあるので、程よい重たさと軽やかさが癖になる一枚。
KANGA: Moscow official music video #ARTOFFACT - YouTube



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・Lantlôs - Wildhund[Post Black Metal / Alternative Rock]
初期のデプレッシヴなブラックメタルから思えば遠くに来たようで、Markus Siegenhortの美意識はいささかも揺らいでいないことがわかる。ポスト・ブラックメタルとしての要素はほとんど掻き消えているが、ドリーミーなメロディー感や、エモ/ハードコアの衝動性に混ざってブラックメタルの荘厳な雰囲気は残されている。今作の下敷きはエモであることは明白で、Markus Siegenhortの近年のテーマでもある夏をイメージしたサイケデリックな音像も爽やかな聴き心地を与える一枚。
Lantlos - Lake Fantasy [Official Music Video] - YouTube



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・Low - Hey What[Slowcore]
徹底的に世界を断絶した先にある安らぎを表出させたようなスロウコアの生存者による作品は、このご時世であっても孤独感を強めたものだった。誰しもコロナ禍における孤独をシリアスに描きがちだったが、Lowはそもそも孤独は寄り添うものでもなく「そこにあるもの」として描いていたバンドではなかったか。そんなことを思わせるのは、グリッチノイズを入れることで強い緊張感を与えるストレスフルな美しさによるものだと感じられた。徹底した抑制に嵐のようなビートを取り入れたり、アグレッシヴなハードコアとしての側面もチラ見せしてくれる、孤高というフレーズがよく似合う一枚。
Low - Hey (Official Video) - YouTube



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・Mckinley Dixon - For My Mama And Anyone Who Look Like Her[Hip-Hop]
「時間」というものをテーマに丁寧に織り上げられたヴァージニア州のMckinley Dixonの新作は、哲学的なテーマ、親友の死というパーソナルな出来事、母への感謝や自身のルーツを込めている。それは当然にBLMに結びつけられるが、彼が提示していることはそういったマクロ視点のことよりももっと個人にフォーカスしたミクロな私小説的な作風になっているのかと感じた。そういった主張を下支えするソリッドで滋味溢れるリズム感覚だったり、ふくよかな楽器の音色によるドープな音作りだったり、何よりスピーディーに変化していく肉厚な演奏も単純に楽しめる一枚。
McKinley Dixon - make a poet Black (Official Video) - YouTube



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・Malformity - Monumental Ruins[Death Metal]
Death、Cannibal Corpse、Immolation、Malevolent Creationら黎明期のバンドが名声を得ていく様を横で見ていたであろう古豪による満を持してのデビューアルバム。昨今話題のオールドスクールデスメタルはもちろんのこと、スラムじみた残虐なダウンパート、荘厳な雰囲気を持つ邪悪なメロディーラインといったあらゆるデスメタルの歴史を自身のフィルターを通して表現しているような凄みを感じ取れる。これは新人バンドのゼロスタートの純粋さよりも、はじまりから現在に至るまでの肌感覚を再現した感覚もある。そのため、個人的にはデスメタルとはこういうものだということを再確認できた一枚。
Malformity "Perverse Apotheosis" (Unspeakable Axe Records) - YouTube



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・Negură Bunget - Zău[Post Black Metal/Pagan Black Metal/Post Metal]
中心人物であるメンバーが亡くなったために活動休止をせざるを得なくなった彼らの、まさかの新作。だが、今作は純然たる復活作ではない。今作リリース後もステータスはActiveではなくSplit Upである。今作はNegruが生前レコーディングしたドラムを使用し、彼が想定していたコンセプトを再現した三部作最後の一作となる。前作、前々作の流れを汲む静謐なアンビエントな音響を意匠として組み込み、荒ぶるギターやドラムによるダイナミックな曲展開を提示する構成だ。Negruが生前想定したスタイルかどうかは不明だが、彼の遺産を盟友たちが再現しようとした試みとしても胸が熱くなるだろう。ダイナミックで、センチメンタルとは無縁のルーマニアの歴史を感じさせる壮大な一枚。
Negură Bunget - Brad (Edit) [Official Music Video] - YouTube



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・Ophidian I - Desolate[Technical Death Metal]
アイスランド出身、圧倒的な手数足数のドラムと惜しげもなく放り込まれる叙情的なフレーズの数々に平伏したテクニカルでメロディックデスメタルの一翼。中心人物はブラックメタルが出自だが、その気配は一切なし。一聴してどの指をどう動かしているのかわからなくなる指捌きだが、門外漢も耳を奪われるメロディックなフレーズのオンパレード。どの曲もブルータルでキャッチー。特濃の叙情性をこれでもかと詰め込まれていくが、もたれることなくスルスル飲めてしまう一枚。
OPHIDIAN I - Diamonds (OFFICIAL MUSIC VIDEO) - YouTube



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・Sinikka Langeland - Wolf Rune[World]
ノルウェー出身、深い陰影に富んだ歌をじっくり聴かせる作品。カンテレをメインに扱い、ECM特有の凛としたプロダクションで息をも飲むような静寂を作り上げる。ノルウェーの伝統音楽に根差したメロディーラインや、古語ルーンも使用した魔術的な世界観。それはともすればアトモスフェリック・ブラックメタルにも相通じるものであり、Myrkurが目指しているものの終着点の一つかもしれないという予見を抱かせる。きらめくように乱反射する楽器の音色に導かれて、古代の廃墟で焚火を囲んで鳴らされる吟遊詩人の歌とはこういうものだったのか、と想像が膨らませられる一枚。
Sinikka Langeland - Eye of the Blue Whale (From the album 'Wolf Rune') | ECM Records - YouTube



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・Swallow The Sun - Moonflowers[Melancholic Doom]
徹底的に内面と向き合った影響か、「この作品が大嫌いだ」とギタリストが言ってしまうほどの深い絶望と美の極致。デスドゥームとしての透徹した意識は彼らを解体した前作を一つに結集し、アップデートした凄味に満ちている。Swallow The Sunらしい奈落に突き落とされる重圧感はもちろんのこと、そこに留まらない叙情性も今まで以上に発露しているため、リスナーとしては歓迎すべき作品に仕上がっているのだ。Mikko Kotamäkiの柔も剛も自在に操る圧巻のヴォーカルワークのキレも過去最高で、相変わらずの巧さに舌を巻くだろう。絶望に心を折られ膝を抱える暗さに満ちた、これぞメランコリックドゥームと膝を打ちたくなる一枚。
SWALLOW THE SUN - ENEMY (OFFICIAL VIDEO) - YouTube



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・Thief - The 16 Deaths of My Master[Industrial/Trip Hop/Alternative Rock]
ブラックメタルに携わる者がインダストリアルやトリップホップといった方向にいくことはUlverが道を拓いていてそこまで難しいわけではない。元々Botanistでハンマー=ダルシマー奏者だったDylan Nealは、今作を聴けばそこまで骨の髄までブラックメタルに浸かったバランスの持ち主ではないということがわかるだろう。不穏なエレクトロビートやノイズを操り、耽美で暗いメロディーラインをエッジの効いた演奏でアグレッシヴに聴かせる。これはNine Inch NailsMassive Attackらの影響や、それこそUlverあるいはCoilの影響をも感じられる。昨今の寸断化していくノイズビートではなく、90年代~00年代のインダストリアル的な滑らかな電子渦に叩き込まれるがノスタルジックとは無縁の凶暴な一枚。
Thief - Teenage Satanist [Official Music Video] - YouTube



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Trivium - In The Court of The Dragon[Metalcore/Heavy Metal]
新世代のメタルヒーローと呼ばれて幾星霜、今作は堂々たる貫禄に満ちた確信の作品だ。Iron MaidenやJudas Priestといった先達からのフィードバックはもちろんのこと、メタルコアとしての若さに溢れた瞬発力も大々的に注入されている。充実作だった前作の流れにあるが、よりラディカルにルーツを昇華したものに仕上がった。個人的には、ずっとオルタナティヴな感性を持った正統派ヘヴィメタルの流れをも道筋として示すような作品を望んでいたが、今作は見事自分の欲求を満たしてくれたスタイルだったのが嬉しかった。メタルはこういうものだよね、というような説得力に満ちた一枚。
Trivium - In The Court Of The Dragon [OFFICIAL VIDEO] - YouTube



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・Unanimated - Victory In Blood[Black Metal/Death Metal]
時代性を超越したようなメロディック・ブラックあるいはメロディック・デスメタルは12年ぶりとなる今作でも存分に堪能できる。邪悪で冷たいトレモロと凶暴なヴォーカルやソリッドなドラムといった要素は順当にアップデートされている。今作は、背徳感の溢れた暴力性にひれ伏す、ただそれだけの作品だ。合間合間に挟まれる詩情豊かなギターインストも妖艶で冷たい雰囲気を構築している。UnleashedのFredrik Folkareによるツボを完全に抑えた見事なプロデュースも相俟って、雪に覆われた闇夜の森林を駆け抜けるような一枚。
UNANIMATED - Victory In Blood (VISUALIZER VIDEO) - YouTube



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・Unreqvited - Beautiful Ghosts[Post Black Metal]
プロジェクトのコンセプトにもある「Depressive & Uplifting」の間違いなくUpliftingに属するであろう多幸感に溢れた作品。極めてドリーミーだが、非常に躍動感に溢れていて鬼の誠実な人となりが伺い知れる。ピアノの優しく穏やかな音色、いつもと同じように声を枯らして言葉にならない絶叫を迸らせるヴォーカルと言い、どれを切り取ってもUnreqvitedそのもので著しい変化があるわけではない。それでも聴いた時に感じる、いつものUnreqvitedではないという感触が素晴らしく響く。混沌とした世界でも祝福と慈愛を忘れないでいたいという気持ちを抱かせる、歓喜に包まれたブラックメタルを提示してみせた一枚。
unreqvited | all is lost - YouTube



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・Vildhjarta - måsstaden under vatten[Djent]
久しぶりの作品はダブルアルバムというボリュームだが、沈黙に要した時間に足る充実したアルバムだ。持ち前の幻想的で薄闇の残酷さに満ちたメルヘンチックな世界観は健在、残虐なリフと変則的に飛び跳ねるリズムの躍動感はますます冴え渡り、寡作でありながらも王者の風格が出てきている。愚直なまでにDjentのベーシックな要素を踏襲しているが、エグみのあるヴォーカルや浮遊感のあるアンビエント処理は一定以上のキャッチーさを体得した。不在のギャップを微塵も感じさせない、ミステリアスな叙情性と強靭な肉体性で聴く者を捻じ伏せる一枚。
VILDHJARTA - när de du älskar kommer tillbaka från de döda (OFFICIAL VIDEO) - YouTube



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・Whitechapel - Kin[Deathcore]
スタイルを変える、ましてやクリーンヴォーカルを入れるという変化を受け入れられているデスコアバンドも彼らくらいだろう。アメリカはテネシー州ノックスビル出身のWhitechapelによる、クリーンなスタイルを取り入れてから数えて3作目。作を重ねる度に巧さを増していくPhil Bozemanの堂々たる立ち振舞、時にブルージーアメリカーナの広がりあるメロディアスな馴染みやすさはさらなる高い次元に辿り着いている。それでいて威圧的なグロウルや執拗なダウンパート、重苦しいリフを多用した安定の暴虐性はいささかも削がれておらず、メロディックな部分と同じ位相にある。熟練したテクニックで暴力性と同時に郷愁や感傷にも浸らせられる一枚。
Whitechapel - A Bloodsoaked Symphony (OFFICIAL VIDEO) - YouTube



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・The World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Die - Illusory Walls[Emo/Post Rock]
コネチカット州ウィリマンティックで結成した音楽集団で、今作は4年ぶりの4作目に当たる。元々はAmerican Football直系のエモを演奏していたが、徐々に音楽性を壮大な方向へ舵を取り、Arcade FireやTeam Me、Sigur Rósといったバンドのようなポストロックを取り込んでいき、今作はその極致。David Belloの安定したエモーショナルな歌心に、Katie Dvorakの可憐でポップな歌声が重なる感覚は、一つ頭抜けた完成度に仕上がっている。特に最終曲は20分の大作となり、アルバムを総括するめくるめく旅路の中で、ノスタルジーに浸らせ切らない新鮮な驚きが随所にある。エモとポストロックの甘酸っぱい邂逅にハードコア由来の攻撃性をかすかに薫らせた一枚。
The World is a Beautiful Place & I am No Longer Afraid to Die - "Invading the World of the Guilty" - YouTube



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・Wristmeetrazor - Replica of A Strange Love[Metalic Hardcore]
ワシントンDCを拠点にするWristmeetrazorによる最新作は、獰猛な狂気を突きつける刃先のような鋭さのある作品だ。ハードコアのブレイクダウンに、メタルコアにも近い青いメロディーもそうだが、なによりスラッシュメタルにも通じるザクザクと耳を切り刻むようなリフ。ハーシュなスクリームとエモーショナルなクリーンヴォーカルを駆使するJustin Fornofの恐るべき柔軟性と卓越した歌唱力は、カリスマ性溢れるものだ。時にEBMのようなボディビートすら飛び出してくる予想を超えた展開に興奮を覚えた。先鋭的な視点もしっかりある全身をナイフで突き刺すような凶暴性に耳を嬲られる一枚。
WRISTMEETRAZOR - LAST TANGO IN PARIS (FT. ISAAC HALE OF KNOCKED LOOSE) (OFFICIAL VIDEO) - YouTube



▼所感▼

少し早めになりますが、今年のベストアルバムはこんな感じです。
ブログはほとんど更新できていないのが今年のトピックですが、ほとんどツイ廃になってしまっていましたね。
だからというわけでもないですが、短評を今年はそれぞれにつけています。
今年を振り返ると、ポスト系をよく聴いていた気がしますが、非常に豊作な一年でした、
去年を超えていますね。デスメタルもたくさんのリリースがありましたが、今年は個人的にはブラックメタルやポストブラックメタルやポストメタルを集中的に聴いていました。
そして、自分が音楽にのめりこむきっかけになっていったポストロックやインダストリアルといったものにも回帰していた気もしています。
来年もちょっと更新は似たようなペースになろうかと思いますが、ゆるゆるお付き合いくださると幸いです。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。