むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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lynch. / REBORN


lynch. / REBORN



日本のロック/ポストハードコアによる11作目フルレングス。



ほぼ年一枚のペースでアルバムを出し、精力的に活動していた彼らが活動休止し、復活作となるのが本作です。
メインコンポーザーの葉月の(バンド向きに使える)リソースの枯渇といった側面もあるのでしょうが、結果として一旦足を止めることになりました。
復活作となる今作ですが、今までは「lynch.はこういうバンドです」でしたが、本作は「lynch.はこんなメンバーがやっているバンドです」という作品に仕上がっています。
というのも本作、各メンバーが2曲ほど持ち寄り、10曲構成になっています。
そのため、過去最も楽曲の幅が広く、バラエティ豊かであり、アルバムとしても凹凸のある作品になっているんですね。とは言っても、元々のlynch.の持ち味でもある、ポストハードコアに接近した衝動性の強く、メタリックな強度を持っているスタイルは不変。
葉月作曲であるM-1Eclipseからして、今までのlynch.らしいメロディアスでソリッドなポストハードコアの要素満載ですが、照準を絞り込んでいるためか、強度が非常に強い曲に仕上がっています。
少しルーズなグルーヴ感を伴って疾走するラップじみたVoも飛び出すM-2「The Forbidden Door」、スラップを多用した跳ねるようなベースにメランコリックなギターを合わせて疾走するM-3「Nihil」、前のめるドラムに合致するリフの勢いに焦燥感を煽るM-4「Angel Dust」と、序盤の時点で既に、これまでのlynch.と同じようで異なる毛色の楽曲に、面白みを感じられるかが本作の敷居でしょうか。
閉塞感のあるリフと呪術的な歌い回しのVoが重厚なグルーヴの上で螺旋を描くようなM-5「Crime」、デジタライズしたような感覚に陥るギターとメリハリのあるリズムが耳を引くM-6「Bleu」、keinのような退廃的な暗さに反してじっくり歌い上げるVoが演歌に通じる情念を漂わせるM-7「Pragma」と、中盤はメロディアスで静かな雰囲気なので、人によってはだれてしまうかもしれません。
シャッフルビートで狂ったような歌が乗っかる妙に耳に残るM-8「Candy」、従来のlynch.の暴れ曲の真髄を一曲に封じ込めた狂気的なハードコアM-9「Calling Me」、浮遊感ある音作りの中で静寂と軽やかな疾走を織り込む幕引きM-10「Sink」と、凹凸のある楽曲が並ぶ一枚です。
完成度という意味では過去作には及びませんが、作品のコンセプト的にこのバラツキは狙いなので、本作が過渡期になるのかは次作にかかっていると思います。
普段の手癖のないメロディーには、葉月の歌の苦心が感じられ、この点は大変良かった。
メンバーの曲も個性豊かで良いですが、メインコンポーザーである葉月の作曲能力の高さはバンド内でもやはり突出しており、彼が作曲しメンバーが演奏するだけでlynch.足り得えてしまう、といった業の深さのようなものを再確認できる一枚です。
とは言うものの、作曲のバランスを一新した新生lynch.の、バンド内ワクワク感は確かにしっかり感じられますよ。



1. Eclipse
2. The Forbidden Door
3. Nihil
4. Angel Dust
5. Crime
6. Bleu
7. Pragma
8. Candy
9. Calling Me ★
10. Sink
(2023/King Records)
Time/40:49


Score:8.5/10


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