むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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【インタビュー】Bizarrekult


弊著『ポストブラックメタル・ガイドブック』にもレビューを掲載しているBizarrekultにインタビューしました。
答えてくれたのは、結成時からの中心人物であり、Bizarrekultの頭脳であるRoman Vです。



Q.新しいアルバム『Den tapte krigen』はとても美しいアルバムです。リリースされたばかりですが、反応はいかがでしょう?

A.ありがとう。評判はとてもよかったよ。長く愛された最初のアルバム『Vi Overlevde (We survived)』からの変わったこともあって、発売前は少し不安だったけど、予想以上に好評だった。嬉しいね!




Q.『Den tapte krigen』には「Kongen」という曲があります。日本語の「根源」という言葉から取られたのですか?

A.違うよ。"Kongen "とは、ノルウェー語で「王様」を意味する言葉なんだ。この曲の歌詞は、人間が自称する「動物界の王様」としての役割を扱っている。生物の搾取(人間が他の人間から搾取されることも含む)、暴力、大量の養殖に反対して書かれた歌なんだ。狩人や肉屋の口から語られる、犠牲者を誘い出し、そして殺し、皮の焼ける匂いを楽しみ、殺人者であることを楽しむ物語だ。誰も止められない力の自己満足。セカンドパートでは、「コンゲン(王様)」という叫び声と「モーダー(殺人者)」という叫び声が交錯しているよ。




Q.「Midt i stormen」はロックンロールのダイナミズムがあります。それに淡いテクスチャーが大胆に被さっていて、Bizarrekultの新境地を感じました。特にドラムのリズムが魅惑的です。どのように作られたのですか?

A.そうだね。確かに最初の部分は、オフビートのドラムパターンやハーモニックマイナースケールの使用により、ほぼSystem of a Downの方向性だよ。でも、当初は中間部、妻が歌っている部分しかなかったんだ。そのコード進行を僕がギターで作曲し、彼女がピアノで参加して、その場で歌詞を書いた。純粋にインスピレーションを受けた瞬間だね。それから、冒頭の2つのリフと、冒頭のムードに戻るんだけど、よりスローでドラマチックなアウトロを作ったんだ。



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Q.Bizarrekultはロシア出身ですよね。ですが、Metallumのステイトメントはノルウェーオスロとなっています。これは本当ですか?また、どういう経緯でバンドを結成したのか教えてください。

A.僕と妻はロシア人で、僕らはシベリアで育った。2005/2006年にまだロシアに住んでいる時にBizarrekultを作ったんだけど、その後2008年に離れ、2009年にノルウェーでBizarrekultを短期間だけ再開し、2010年から2019年の間に再び休むことになった。バンドは基本的に僕が作曲と作詞をしているね。ここ数年は妻もこのバンドに欠かせない存在だよ。妻は僕にフィードバックを与え、必要であればアドバイスをしてくれる(彼女は音楽の先生なんだ)。それから、レコーディングのためのセッションミュージシャンもいるね(ドラマーのAlexander Pryakhinはデモを含むすべてのレコードに参加しているし、2019年にはギターのIgnat Pomazkovも加わった)。さらに2021年からライヴを始めたので、ライヴのラインナップもあるね。




Q.初めて聴いたブラックメタルを覚えていますか?

A.そうだね、90年代半ばのことだ。学校の友達が、Emperorの「I am the Black Wizards」の入ったテープを持ってきたんだ。その時は、まだ音ができていなかったのか、あまり印象に残っていないね。




Q.Bizarrekultは2010年頃に一度終わっていますが、2019年に『Join the Kult!!!』でカムバックしています。カムバックしようと思った決意の源は何だったのでしょうか?

A.『Join the Kult!!!』は実は2007年のデモ音源で、2019年になってからオンラインにアップしたものなんだ。復帰の決断は簡単ではなくて、当初はベルゲンでプロジェクトを再スタートする際に2009/2010年に作曲した楽曲を録音することだけIgnatと合意していたんだよね。2014年か2015年にスケールモデル(ミニチュア模型)のイベントで実際に会ってみると、模型の題材だけでなく音楽も好みが似ていて、僕が過去にミュージシャンだったのに対して、彼は現役のミュージシャンであることがわかったんだ。だから、ベルゲンでプロジェクトを再スタートする際に、2009/2010年に作曲したトラックを完成させなければならないと何年も前から言っていた。でも、レコーディングを始めて、特に新しい歌詞を書き始めると、新たなインスピレーションが沸いてきた。最近、音楽をやることが自分にとって必要不可欠であることがわかったんだ。だから、何か言いたいことがあると感じる限り、音楽を続けてきたし、これからも続けていくつもりだよ。




Q.Bizarrekultのスタイルは、ギターが高音で襲いかかってくる荒々しさと心が壊れそうな儚さが共存していますよね。このスタイルに辿り着いたきっかけはありますか?

A.僕らの周りにはストレスやネガティブなことがたくさんあるけど、僕にとって音楽はエンターテインメントの問題ではなく、救済や治療のようなものなんだよ。エモーショナルで美しくなければならない。確かに、単純にヘドバンして楽しいものを聴くのもいいけど、自分にとって音楽にはエモーショナルなドラマが必要なんだ。地下鉄で見かけたものからインスピレーションを受けたり、もうとっくになくなってしまった感情を表現したり、そのうちに言う勇気がなくなったことを伝えようとしたり、その言葉のために涙を流してそこに座っている。実はそのせいで、一度ステージ上で感情的になりすぎて、立ち止まって退場してしまいそうになったことがあるんだけど……なんとか自分をコントロールすることができたよ。



Q.再結成ラインナップのIgnat Pomazkovは素晴らしいギタリストですね。彼のギターで、バンドが新生したようなイメージがあります。この解釈は合っていますか?

A.そう、彼は素晴らしい人であり、素晴らしいギタリストなんだ。数年前から僕の音楽をレコーディングしようと話していたんだけど……僕の背中を押し続けてくれた彼に永遠に感謝している。彼がいなかったら、間違いなくレコーディングしていなかったと思う。僕たちは好きなバンドが違うから、僕のオリジナルのキャンバスを豊かにしてくれるような気がする。特に 『Vi Overlevde』では、彼がいくつかのアイデアを提供してくれて、僕の草稿をより良いものにしてくれたんだ。『Den tapte krigen』では、最終的にどのようなサウンドになるのか、僕の方がより良いヴィジョンを持っていたんだけど、彼は美意識やサウンドに対する素晴らしい感覚を持っていて、それがエフェクトや演出の選択に大いに役立っているね。僕はどちらかというと作曲家であり、ミュージシャンではないんだ。僕は創作し、指示を出し、そして実行するために熟練したミュージシャンを頼りにしているよ。問題は、僕らが異なる国に住んでいて、簡単にアイデアを交換することができないことだね。




Q.Bizarrekultには美しい女性コーラスが華を添えています。MyrkurやSylvaineにも近いものを感じます。この要素の具体的な着想は何でしょうか?

A.『Vi Overlevde』のレコーディングの際、Dina(妻/Dinara V)がコントラストと美しさのためにクリーン・ボーカルを少し加えることを提案したんだけど、とても良い仕上がりになったと思っているよ。彼女はクラシック音楽の合唱団で学び、ジャンルや時代にとらわれず、音楽全般の知識が豊富だ。現代で例を挙げるなら、Anneke van Giersbergenが参考になると思うけど、それ以外ではノルウェーの民謡(MyrkurやSylvaineを参照したのはだからかな)、ロシア音楽(ただし、ここでは別の歌い方が使われているかな)などが思い浮かぶね。




Q.Bizarrekultのスタイルは、静と動のコントラストがダイナミックですよね。まるでMogwaiらポストロックのような感触もあります。このダイナミズムは狙い通りですか?

A.正直なところ、わからないんだ。具体的なプランもテンプレートもなく、ただただ思いつくままに作っているよ。内なる感情や直感がすべてなんだ。世界中の人々が同じような感情を経験しているから、他のバンドでも聴くことができるのは間違いないよ。




Q.これは是非聞いてみたかったのですが、Bizarrekultのアルバムカバーは非常に印象的です。『Vi overlevde』は巨大なヘラジカ。『Den tapte krigen』は都市を背負った甲虫のバトル。私はこれらがとても好きです。モチーフはあるのでしょうか?

A.ありがとう。このジャケットは両方とも同じアーティスト、ロシアのサンクトペテルブルク出身のIvan Gladkikhによるものだよ。彼は主にハードコア/ポストハードコアバンドと仕事をしていて、彼のプロフィールを見つけたとき、彼が協力することに興味があるかどうか確認することにした。歌詞の意味を説明すると、『Vi Overlevde』では1曲につき1枚、歌詞に直接関連したアートワークを制作してくれた。山々に重なる巨大なヘラジカは、経験やトラブル、感情を背負っている人の象徴で、その人は孤独で、自分の感情に没頭しているので、山でさえ小さく感じてしまうんだよ。経験や感情だけが重要なんだ。
また、『Den Tapte Krigen』には、ヴィクトル・ペレヴィン(ロシアの小説家)の小説『昆虫の生活』をかなり引用している。そこでは、さまざまな種類の昆虫を、さまざまなタイプの人間や人間社会、人間関係の例として用いている。僕が考えたのは、「重荷に取りつかれた一人の大きな個体」(ヘラジカ)から、「重荷を負い、苦痛に満ちた多くの個体」(壊れた夢や実現されない目標の城を持つ昆虫)へと変化していくこと。彼らは小さく、似たような大きさで、戦い、死に、自分の人生が何であるかほとんど理解していない。それは多くの曲で歌詞とつながっていて、またこの戦う2匹のカブトムシ……それはただ1匹のカブトムシ、同じ個体が自分自身と戦い、失われた戦争(タイトル『Den tapte krigen』-失われた戦争)なんだ。




Q.Bizarrekultの歌詞は抽象的ですが、詩的で美しいです。特に「Ensomhet」が好きです。この曲に限らず、Bizarrekultの世界観は何をテーマにしているのでしょう?

A.ありがとう。学生時代に20世紀初頭のロシアの詩(マヤコフスキー、マンデルスタム)やドストエフスキーのような文学の巨匠にとても影響を受けたことが、詩の影響につながったと思うな。僕にとって、言葉を書くということは、傷を開くようなものだ。自分の内面を開き、自分をさらけ出し、日常の「普通の」生活では口にする勇気のないことについて話すこと。だから、ほとんどが感情、経験、考察なんだよ。自分自身や自分の人生、知人について、時には社会派(「Skrik i tomhet」や「Kongen」)、時にはペレヴィンの本のようにポストモダン的なものもあるね。


Q.影響を受けたアルバムや、好きなアルバムについて教えてください。

A.ハッ!それは長いリストになるな、どこから始めればいいんだろう。年齢を重ねるにつれて変化していく、ダイナミックな絵画だね。Depeche ModeからMy Dying Brideまで、何でもありだよ。90年代前半はMetallicaやKreatorが多く、昨年は「King Nothing」のカバーバージョンも作ったよ。その後、My Dying Bride、Anathema、Paradise Lostというイギリスのドゥーム・デスの三大名バンドを発見したね。今でもMy Dying BrideとParadise Lostは聴くかな。Anathemaはあまり聴かないけど「Du Lovet Meg」にはAnathemaの(後期の)影響を少し感じられると思う。さて、ブラックメタル関連のバンドに話を移そうか。2000年初頭のCradle of Filthは巨大だった。ドイツのDark Fortressノルウェーの多くのバンド - Koldbrann、Kampfar、Khold、Carpathian Forest、Emperor(『Anthems to the Welkin at Dusk』)、 アメリカのDeafheaven(『Infinite Granite』は2021年の僕のお気に入りの一つだよ)。昨年一緒にツアーに出たバンドにも触れないわけにはいかない。Der Weg Einer Freiheit、Regarde Les Hommes Tomber。




Q.日本に来たことはありますか?

A.いや、まだなんだ。でも、家族で、あるいはBizarrekultで、何はともあれ日本に行きたいと思っているよ。娘たちは漫画やアニメ、ジブリ映画などに夢中だ。それと、僕はスケールモデルにとても興味があるから、日本で模型をやっている友達が結構いるんだよ。




Q.日本のファンや、これからBizarrekultを知る人にメッセージをください。

A.僕の音楽を聴いてくれて、本当にありがとう。言葉の壁に関係なく、人々が評価してくれることはとても意味のあることで、僕は嬉しく思っている。自分の人生において大切なことに注意を払い、他人に失望させられないようにね。
いつか日本で演奏できることを願っているよ。また、ノルウェーに旅行される方は、2023年4月に開催されるInferno festivalの前日に会いに来て。



Bizarrekult:
2006年頃、ロシアで結成。その後、短期的に復活するが、2019年に本格的にノルウェーで活動を再開。2021年には、初となるアルバム『Vi overlevde』をPetrichorから発表。以後、中心人物のRoman Vと妻のDinara Vはノルウェー、ドラムのAlexander PryakhinとギタリストのIgnat Pomazkovはロシアを拠点にしているため、ライヴは別のメンバーで行っている。2023年には通算2作目のフルアルバム『Den tapte krigen』をSeason of Mist Underground Activistsからリリースした。
現在のラインナップは
Roman V(ヴォーカル/作詞作曲)、Dinara V(ヴォーカル)、Ignat Pomazkov(ギター/ベース)、Alexander Pryakhin(ドラム)



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