むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

「傑作!」を連発するレビューブログを目指しています。コメントは記事ページから書込・閲覧頂けます。

syrup16g tour 「Les Misé blue」12/2:Zepp Namba


syrup16gのライヴ実績を解除してきました。興奮のままに書き殴った怪文書レポです。
終演後のステージの写真が保存されていなかったので、終演後のZepp Nambaです。


syrup16g
実は、ライヴを観るのはこれが初めてである。存在自体は『COPY』の頃から知っていたし、『coup d'Etat』から『Mouth to Mouse』までは熱心に聴いていたのだが、当時は落伍的な生活を送っていて金もなかったので、解散までライヴを観たことはなかった。
復活後は好みが少し逸れていたこともあり、以前ほど熱心に聴いてなかった。
それが、なぜか久しぶりのツアーに惹かれ、告知のその日には慌ててチケットを押さえていた。理由は正直わからない。
発売日に買った新作『Les Misé blue』は彼らのアルバムでも屈指のメロディーセンスであると思ったし、年を重ねて円熟味のある演奏が楽しめるいいアルバムだった。
だが、ライヴを行くのはわかっていたので、あえて聴く回数を減らし、自分の中のsyrup16gの純度を解散前に戻す試みをして今回のライヴに臨んだ。
それをした理由も自分でもわかっていないが、ライヴ後の今は少しわかる気がする。



19:00開演、少し押してメンバーが入場してくる。一曲目は「I Will Come (before new dawn)」。少し不安定なギターの轟音と安定感のあるドラムとベース。五十嵐隆が声を発した瞬間、不思議と場を空虚さが支配し、五十嵐隆の存在感が希薄になる。
少し倦んだ柔らかいメロディーを放射する「明かりを灯せ」、突き刺すような投げやりな歌が響く「診断書」にしても、彼の存在感の空白に聴く者がトレースして自分に取り込むような感覚があった。
彼は旧態然としたロックスター的な佇まいではないし、圧倒的な美声でもないし、とにかくうまいというギタリストでもない。が、歌い出した瞬間に存在感が希薄になるという稀有な個性を持っていることを確信した瞬間だった。
それが唯一無二であり、彼のマイクにファン各々のペルソナを憑依させているのではないか、そこにファンは大きな共感を持ち得ているのではないかと思った。
彼は、我々の日常の倦んだ一面の代弁者足り得る。そのため、我々は彼の歌う歌にどこまでも自分を投影して共感してしまう。
だからこそ、syrup16gのファンは五十嵐隆に対して、他人事を装えない。どこまでも心配してしまうのだ。
曲の終わりに小声で「ありがとうございます」と言うのも、曲を飛ばしてメンバーに突っ込まれるやり取りも圧巻というよりはどこか「愛おしい」と思えてしまうような感覚が本編中にはあった。
もちろん、珠玉の曲たちがひしめく『Les Misé blue』の美しいメロディーや、か細く振り絞るようなヴォーカルの寄る辺なさに、syrup16gの真骨頂は感じられた。
だが、あくまで新譜セットリストの本編は、キタダマキ五十嵐隆に漏らした「リハビリ」のような感覚が付きまとう演奏だったことは否めない。
それが悪いわけではなく、syrup16gの味として許容できる母性をファンは持ち合わせているだろうし、不思議とあの場では許せてしまうのだ。
「Everything With You」や「うつして」といった切実さと美しさが迸る瞬間は多々あったし、青を基調とした前半や真っ赤な荒野に3人のシルエットが浮き彫りになるようなライトの演出にハッとさせられる瞬間も度々あったが、この寄る辺のない存在感の希薄さがsyrup16gなのだろうと思うに至った。これは、自分が2階席だったために俯瞰してライヴを観ていたせいも関係していると思う。



ところが、アンコールではぐんと存在感を増す。本編に比べてアップリフティングな曲が多めで、『COPY』から「Drown the light」、『Free Throw』から「明日を落としても」という情緒をぶっ壊しにかかる〆でやられたせいかもしれない。
2回目のアンコールラストの「リアル」を聴いた時、「ああ、今日のライヴはここにたどり着くまでの道程だったんだ」ってストンと腑に落ちた。
スタジオテイクよりも破壊的で、生々しく肉感的な演奏に、syrup16gの、五十嵐隆の存在感が肉を帯びる瞬間を目の当たりにしたからだ。
「リアル」が終わって去っていく彼に、「さようなら」ではなく「おかえり」という気持ちになったのは、おそらく私だけではないだろう。
「命によって俺は壊れた/でも命によって俺は救われた/本当のリアルはここにある」と声を枯らす五十嵐隆に、「叫び生きろ/私は生きてる」「此処が真実だ」と叫ぶDIR EN GREYの京がオーバーラップした、自分にとって得難い経験だった。
まさかの3回目のアンコールでは、新譜からツアーのタイトルでもある「Les Misé blue」を軽やかに演奏し、爽やかな喉越しを感じられた。



最後に、新譜をあえて聴く回数を減らした理由は、ライヴを観られなかった当時を反芻したい気持ちが働いたからなのだと思う。
読んでいただき、ありがとうございました。



セットリスト
I Will Come (before new dawn)
明かりを灯せ
Everything With You
診断書
Don't Think Twice (It's not over)
モンタージュ
深緑の morning glow
Alone in lonely
In the air, In the error
In My Hurts Again
うつして
Maybe understand

En.
Dinosaur
stop brain
Drown the light
明日を落としても

En2.
前頭葉
神のカルマ
天才
リアル

En3.
Les Misé blue