むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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DIR EN GREY / PHALARIS


DIR EN GREY / PHALARIS


日本のロックバンドによる11作目フルレングス。



今か今かと待っていた彼らの新作ですが、非常に暗く渇いた質感にしつらえたヘヴィな傑作となっています。
ミキシングエンジニアに、David Bottrill(Tool、Muse、Stone Sour、King Crimson等)、Carl Bown(Bullet For My Valentine、While When Sleeps等)、Neal Avron(Linkin Park、Twenty One Pilots等)、Tue Madsenを迎えています。
また、マスタリングはBrian “Big Bass” Gardner(Linkin Park、Tyler, The Creator、Kendrick Lamar等)です。
この鉄壁とも言えるエンジニア陣ですが、非常に統一感のある仕上がりになった印象です。
その統一感の正体は、今作非常に暗いという感覚を聴き手に与えるということ。
トータルバランスに優れているにもかかわらず、エンジニアによって担当した楽曲の印象をガラッと変えてきます。
これが非常に興味深い。
特に今作のハイライトとも言える長尺曲M-1“Schadenfreude”とM-11“カムイ”では、エンジニアの特性の違いが顕著に出ていて、それが楽曲のキャラクターにも個性が立っている遠因にもなっています。
また、四者四様のミックスの幅がそのままDIR EN GREYの歩んでいた道程にも繋がっているため、バンドの言う「濃さ」や「集大成」といった今作のキーワードにも繋がっている感想を持ちましたね。
Carl Bown担当楽曲はメタリックな硬質感が前に出ており、『The Marrow of A Bone』〜『Dum Spiro Spero』に聴かれたメタルやハードコアの硬質なアグレッションが強まっていて、それがそのまま今作のドライで攻撃的な感触になっています。
対してDavid Bottrill担当楽曲は、ニューメタルの陰鬱さやプログレッシヴロック/メタルにあるような優美さや壮麗な雰囲気が強まり、よりディープな世界観を感じられる曲になっています。
シングルにもなったM-2“朧”のみNeal Avronですが、この曲の持つポップソング的なキャッチーな掴みを強調した要素がアルバムの最初の方にあることによって、掴みづらさや難解さに拍車をかけている感覚に陥りました。
再構築2曲はTue Madsenで、安定した分離の良い仕事をしており、透明感と重厚感を合わさった音に仕上がっています。
計算なのか天然なのかはわかりませんが、曲を任せるエンジニアの選出は素晴らしくバランスの取れた、適材適所と言うより他ない人選だと思います。



Schadenfreude
静かにフェードインしてくるアコギの美しさ。それを切り裂く分厚いリフに、うっすら寄り添うアコースティックな調べが麗しさを強調するヘヴィでプログレッシヴメタルを想起する曲。徐々に暴虐性を増していくVoがそれこそ地獄の様相を呈しています。長尺DIR EN GREYに求められる全てのマテリアルが詰まっている約10分。今までにない節回しの歌がかなり新鮮で、独特の歪さを漂わせていています。立ち上がりの艶めかしいギターフレーズに「Un Deux」辺りが過ぎり、つまるところこれが「DIR EN GREYらしいフレーズなのだな」と思いましたね。



電子音と銀盤のイントロが際立つ美しいバラードで、随所にポップソング的なフックを感じました。ラジオフレンドリーな美しさや親しみやすさを与える一方、グロテスクなPVや鬱度高めのストーリーラインを描く歌詩が初見さんお断り感を出していて、意外と作中最も底意地が悪いと感じられますね。この曲をここに配置していることによって、クリアなのによくわからない、というイメージを増幅しているような感触さえ与えます。


The Perfume of Sins
シンフォニックブラックのような華やかな疾走感を演出していますが、ブラックメタルデスメタルじみた激しさにクリーンVo主体を載せる歌ラインはHowling Sycamoreにも通じます。全体的にデスメタルっぽいリフや苛烈なドラムでメタリックな攻撃性を発散していて、軽やかに疾駆するパートにはツタツタ発狂V系ソングをアップデートしたような印象があります。楽曲全体の独特のおぞましさや、妖艶なクリーンVoに、今作の象徴的な薫りを感じさせるのは確かです。今作随一のべったりとした湿度を感じます。


13
何気にDIR EN GREYが得意としていると思っているエモやメタルコア的清涼感のある歌メロがこれでもかと堪能できるミドルバラード。同系統の曲は数こそ多いわけではないですが、撃てばハードヒットになるというか。ただ爽やかな美しいメロディーを堪能できるだけかと思いきや、クリーン✕スクリームの掛け合いパートがより黒々とした情緒を深めています。今作でも屈指の激情感のある曲です。個人的には「THE FINAL」に通じる感覚ですね。Voのキーがどんどん上がるので「Vo殺しかよ」と思うのですが、そもそも歌メロつけてるのVo本人なんですよね。


現、忘我を喰らう
トリッキーな歌い回しや独特のパターンを叩くリズミカルなドラムに翻弄されますが、昔のV系らしかったDir en greyと今のカテゴライズしづらいDIR EN GREYミッシングリンク的な面白みがあります。随所で聴ける『Arche』辺りを思い出す荘厳なギターが癖になりますね。本作では比較的速めのBPMですが、どことなく祭囃子のような変な明るさを漂わせているため、歌やギターの重々しさと合わさって異様な雰囲気を演出しています。


落ちた事のある空
体感的に疾走感があるのに意外と速くないという、結構癖のある曲ですが、ずば抜けてキャッチーな歌い回しの影響で陰鬱なニューメタルとエモ/メタルコアが合体したような、DIR EN GREY流ニューメタルコア的な印象を受けました。圧の強さで押し切るではなく、音量に幅を持たせたミックスの影響でより深い音像になっています。「Sustain The Untruth」の進化形にも感じられました。


盲愛に処す
わかりやすい暴れ曲で、これも初期作品に入っていてもおかしくない印象ですが、強靭なプロダクションや縦横無尽やりたい放題なVoが楽曲の楽しさを底上げしています。シンプルなようで、全然シンプルじゃないパターンですね。能のような歌い回しや分厚いリフに『Dum Spiro Spero』収録曲ともリンクするような複雑怪奇な変態性を放射し続けています。Voの卓越した歌唱法の幅広さを堪能できるのは間違いないです。



福音的なギターに、骨を削るような太いベースがど真ん中にくる漢臭いミドルバラードです。伸びやかなハイトーンの美しさや潔く切られる曲終わりに一抹の儚さを強調した「Ranunculus」にも通じる壮麗な曲。歌メロやギターの美しさに耳がいきますが、実のところこの曲の肝はベースの強さであるように思います。ベースに力強さがある影響で、儚い中にも凛としたDIR EN GREYのメロディアスな歌モノの強度がしっかり息づいています。


Eddie
全体的にひたすら疾走するシンプルな暴れ曲。人を喰ったようなVo、太くドライヴするベースラインを主軸に、徐々にグラデーションのように変化していく節が非常に完成度を高めている、これ一曲で『The Insulated World』を葬ったような印象を受けました。速いですが、ただ速いわけではなく、きちんとタメやキメが用意されているので、かなり満足感があります。


御伽
重苦しいノイズに薄くたなびくアンビエントや、一音一音が美しいギターがDIR EN GREYバラードの集大成的な印象を与える曲。ザックリと切りつけるような陰鬱なリフに、語尾を力強く伸ばしてビブラートをかけるような歌がさらに強靭で儚く暗い印象を与えています。鬱々としているのに強度がしっかり感じられるのは、Voによるものでしょう。


カムイ
優美なストリングス風電子音に反して淡々と曲を拡げていく「mazohyst of decadence」「MACABRE -揚羽ノ羽ノ夢ハ蛹-」「蟲-mushi-」の流れを汲むような大作。熱を帯びない展開が無常感や虚無感を強く押し出していますが、随所に挟まれるToolを彷彿させるリフや濃淡をつけるドラムが、相も変わらず編曲の妙を感じます。濃淡のつけ方が非常に巧みで、現実感に乏しい美しさを表現しています。タイトル通り、人知の及ばない美がありますね。アルバムの総括であり、DIR EN GREYの世界観の煮凝りのような、旨味しかないような曲です。


mazohyst of decadence
淡々とした熱の籠らない9分を超える大作だった原曲の尺をばっさりと切り落として、旨味だけを抽出したような再構築です。歪みまくったギターによる音の壁からは、「罪と罰」に通じる陰鬱なリアレンジを施しているようにも感じられます。近年では再構築でも割と崩さないアレンジをしていることが多いですが、この曲に関しては結構変えてきたな、という印象です。


ain't afraid to die
DIR EN GREYのことを知らない人、それもポップスなどをメインに聴いている人にオススメできる代表筆頭でもある屈指の名バラードです。歌詩も悲しい恋の歌のようでもありますし、どぎつくないので。「mazohyst of decadence」とは異なり比較的原曲に忠実に直しており、後半のエモーショナルなコーラスパートは非常に感動的。



楽曲の配置のバランスも非常に良いのですが、1曲目に入り組んだ構造を持つ長尺を配置することで、一聴して難解な印象を与えます。
ですが、楽曲構造的には明らかに『The Insulated World』の延長線上に位置している印象で、みっしりと詰まっていない。容赦なく抜ける箇所は抜いていて、楽曲に不要だと判断されているところはばっさり切り落としています。これがシンプルと感じられるのですが、深く聴いていると物凄く複雑な構造になっています。
それでいて、今作の持つ暗さは明らかに『UROBOROS』を彷彿させるので、宗教的と評せる一因にもなっています。そして、マスタリングの妙もあって非常に抜けのいい渇いた質感を与えているのが特徴的。
それがべったりと張り付いてくるような、『UROBOROS』前後にあった陰湿さをあまり感じさせない、燃やし尽くされてるような独特の聴き心地を与えているんですよね。
個人的に今作で一番感動したのが、アコースティックギターの使い方。要所要所に顔を出してきて、叙情性を高めると共にフックとなって重厚感を増している機能性を獲得しているようにも感じられました。
何より、今作の音の良さで最も恩恵を受けているのがこの部分とも思っています。
ドラムの抜けの良さもドライ感の一助になっていますね。
アルバムの最後と最初に長尺曲を持ってきて、間はそこまで長くない、割とカオティックな曲を配置しているので目まぐるしさやジェットコースター的な聴き応えを与えるのも素晴らしいです。
アグレッシヴな曲とメロディアスな曲の数がそこまで乖離していないのに日和ったような感覚を与えないのは、中盤に激しめの曲を固めて、前後にバランスよくちりばめているからかな、と思います。
何となく、アルバムの楽曲配置・構成がシンメトリーになっている感覚があります。



そして今作が暗いと感じられる最大要因はその歌詩の世界観。前作で見せた内罰的な世界観からさらに踏み込んで、「死」や「終焉」をこれでもかと突きつけてくる、彼らのアルバムでも最重と言えそうなものになっています。とにかく救いがない。ほとんど叫びのようだった前作とも異なり、客観的で明確なストーリーが見えるようなものにもなっているため、「怒りによる絶望」というよりも、「諦観からくる絶望」という、より絶望度の高いものになっています。これ、中てられる人は中てられる気がしました。この深い絶望は、デプレッシヴ・ブラックにも相通じる危険な匂いがありますよね。
今作のタイトル、『PHALARIS』は周知の通り拷問器具ファラリスの雄牛をモチーフにしており、カバーも牛です。ですが、ファラリス単体だとギリシャにいた僭主で人の名前だったりします。そして、このファラリスという人は残虐なエピソードにも事欠かない人だったので、今作が単なる拷問器具だということでもなさそう。


つらつらと長々書いていますが、個人的に今作は大傑作でした。前作も凄い凄いと褒めていた気もしますが、前作の激しさを削ぎ落しているわけではない上に、美しいメロウな感触を増強しているし、めちゃくちゃいい音で録音されていることもあって中毒性の高い作品です。
何なら前作ありきの作品だとも感じられるでしょう。ライヴバンドとしての生々しさを保持したまま、従来の変態性や構築力を遺憾なく発揮しています。
いくら超メジャーではないとは言え、彼らのようにキャリアも知名度もある大きなバンドがここまで暗さをなくさず過去最低にどん底なアルバムを仕上げてくるとは、見事と言うよりないです。
特濃のDIR EN GREYをじっくり堪能できる作品です。
今作の特性上、「最初に触れるDIR EN GREY」に自分が選ぶことはないんですけどね。
特に歌詞を重んじる人には重すぎるきらいがあるので。



1. Schadenfreude
2. 朧
3. The Perfume of Sins
4. 13
5. 現、忘我を喰らう
6. 落ちた事のある空
7. 盲愛に処す
8. 響
9. Eddie
10. 御伽
11. カムイ ★
Time:53:41


1. mazohyst of decadence
2. ain't afraid to die
Time:12:51
(2022/FIREWALL DIVISION)

Score:10/10


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