むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Pensées Nocturnes / Douce Fange

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Pensées Nocturnes / Douce Fange



フランスのブラックメタルによる7作目フルレングス。



デプレッシヴ・ブラックメタルやシンフォニック・ブラックメタルを基盤にして、サーカスやキャバレーの音楽要素を盛り込み、猟奇的な世界観を聴かせる作品です。
Léon Harcoreの独りバンドで前作まではほぼ一人で制作していましたが、今作では作曲とVoに注力しており、全ての楽器でゲストがクレジットされています。
元々戯曲的な作曲に定評があったのですが、前作から露骨に出してきたサーカス的な要素はさらに色濃くなり、サックスやアコーディオンを用いた陽気で猟奇的雰囲気を構築することに成功しています。ファニーで明るい雰囲気なのですが、独特な暗さが支配しているため、フォークメタルとも全く異なる異様な雰囲気が立ち込めているんですね。
オペラVoが朗々と響き渡る特異なスタイルは、雄鶏の爽やかな鳴き声で幕を上げてトレモロが悲壮感たっぷりに掻き鳴らされるM-1“Viens tâter d’mon Carrousel”から堪能できます。
ウッドベースとサックスが唸り邪悪なコーラスや気を削ぐメロディーに居心地を悪くするM-2“Quel sale Bourreau”、気の狂ったような絶叫や薄気味悪い歌に暴れ倒すブラストや厭世的なリフが合わさるM-3“PN mais Costaud !”からもう唯ならないテンションが漲っています。
不気味なアコーディオンと朗々と響き渡るオペラVoや絶叫、グロウルが乱舞する阿鼻叫喚を繰り広げるM-4“Saignant et à Poing”、ざらついたギターやサックスが不協和音を叩きつけるM-5“Charmant Charnier”を経て、有名なタンゴ『La Cumparsita』をブラックメタルに組み込んだ今作のハイライトM-6“Le Tango du Vieuloniste”へと雪崩込みます。この曲は見事なもので、全体的にもタンゴそのものですが、しっかりブラックメタルになっているんですよね。踊れます。
荒れ狂うドラムやトレモロの最大瞬間風速が凄まじく、技巧に走ったVoをこれでもかと味わえる『カチューシャ』らしきメロディーをも織り込んだM-7“Fin Défunt”、複雑に組まれたリズムとサックスに悲嘆に脱力する絶叫が映えるM-8“La Semaine Sanglante”、マーチングドラムと気の触れた管楽器にアコーディオン、様々な声が重なっていくM-9“Gnole, Torgnoles et Roubignoles”に至るまで、気持ち悪いテンションが持続していく作品です。
この独特すぎる世界観は他の追随を許さないほど完成されたものに仕上がっており、Pensées Nocturnesが代替の効かない存在になったと言える素晴らしいアルバムです。
ストレートなブラックメタルではないのですが、暴虐性も実のところ非常に高いエクストリームメタルの裏番長的な存在感を示していますね。
分離の良いクリアなプロダクションであっても猟奇性が殺がれている印象がないのは、このダークで退廃的な空気とテンションの高さが不思議と合致しているからでしょうね。笑いながら首を掻き切ってくるような狂気を感じます。
特に様々な歌唱を駆使するVoの独特さや毒々しいメロディーは、一癖も二癖もあるので、変わり種がお好きな方には是非オススメしたい一枚です。



1. Viens tâter d’mon Carrousel
2. Quel sale Bourreau
3. PN mais Costaud !
4. Saignant et à Poing
5. Charmant Charnier
6. Le Tango du Vieuloniste
7. Fin Défunt ★
8. La Semaine Sanglante
9. Gnole, Torgnoles et Roubignoles
(2022/Les Acteurs de l'Ombre Productions)


Time/49:49

Score:9.4/10



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