むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Cynic / Ascension Codes

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Cynic / Ascension Codes


アメリカのプログレッシヴメタルバンドによる4作目フルレングス。


Sean MaloneとSean Reinertというあまりにも巨大なメンバーを相次いで亡くし、「もはや新しい作品など望めないだろう」「Cynicとしてはもう動かないだろうな」と誰もが思っていた矢先に出た新作です。
バンドを動かすことを決意したPaul Masvidalも悲しみの渦中にいることは想像だに難くないですが、結論から言えば今作はCynicのスキルフルな側面以上に過去最高にエモーショナルな傑作です。
彼らのトレードマークであるヴォコーダーのかかったVoや、独特の浮遊感のあるギターやキーボードが築き上げるSF的な世界観は健在。今作は曲間に短いアンビエントを配置することで作品に感傷的な隙間を持たせるなど、ある種のコンセプトを感じました。
実質的にオープニングを飾るM'2“The Winged Ones”のどこまでも背中に縋ってくるメランコリーなキーボードに反して軽やかに飛翔するギターの美しさ、どれをとっても初期のCynicを彷彿とさせます。
ノイジーなギターと少し重厚なバッキングが混乱を表現しているようなM-4“Elements and Their Inhabitants”、邪悪で荘厳なメロディーやリフとグロウル混じりのVoで大いなる存在を示唆しているようなM-6“Mythical Serpents”、哀感の滲んだキーボードと立体的に組まれたリフやリズムで複雑な心の裡を吐露するようなM-8“6th Dimensional Archetype”、エフェクトをかけたアナウンスや三半規管を狂わせるアンビエントを構築して高次元の世界を覗かせるようなM-9“DNA Activation Template”と悲しみを振り切るような昇華をしている曲が目立ちます。
リフやドラムで若干デスメタルを曝け出す重たさと華やかで静かな歌メロとの対比が美しいM-11“Architects of Consciousness”、クワイアっぽいパートで派手さを出してジャジーで複雑なリズムアプローチで魅せるM-13“Aurora”、迷路のように構築したリフワークとドリーミーな歌声が絡み合う分厚いアンサンブルが楽しめるM-15“In a Multiverse Where Atoms Sing”、メランコリーを振り切るように開放感のあるギターメロディーで鮮烈な幕引きを表現するM-17“Diamond Light Body”と、哀しみに沈むような構成になってないことがまず嬉しかったです。
聴いていると、二人の死を悼むのはもちろんですが、自身の傷へのセラピー、何よりPaul Masvidalが一人でCynicを続行することの重みも感じられる作品です。
高いスキルのミュージシャンズミュージシャン的な作品に留まらず、感情の移ろいを感じさせ親しみやすさも随所に感じられる傑作です。
無論、「Sean MaloneとSean ReinertがいないCynicなんて」という意見も理解できます。それだけにこのタイミングでCynicという看板を下ろさずに続投する決断は勇気づけられました。
自分自身、情緒を激しく揺り起こされる作品がとても好きなんだなと再確認できたアルバムですね。


1. Mu-54*
2. The Winged Ones
3. A'-va432
4. Elements and Their Inhabitants
5. Ha-144
6. Mythical Serpents
7. Sha48*
8. 6th Dimensional Archetype
9. DNA Activation Template
10. Shar-216
11. Architects of Consciousness
12. DA'z-a86.4
13. Aurora ★
14. DU-*61.714285
15. In a Multiverse Where Atoms Sing
16. A'jha108
17. Diamond Light Body
18. Ec-ka72
(2021/Season of Mist,Daymare Recordings)
Time/49:09

Score:9.9/10


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