むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Placebo復活に寄せて。全アルバム簡易レビュー。

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大好きなPlaceboについて書きました。
イギリスのロックバンドで最も好きなバンドを挙げろと言われた時、真っ先に挙がるのがPlaceboです。
彼らと出会ったいきさつなどは覚えていませんが、ファンになってから20年近くは経っていると思います。
私は特段LGBTQに属する人間ではありませんが、彼らの放つダークでどこか透明な空気感にはまったのでしょうね。
また、ブリットポップに色濃かったThe BeatlesThe Kinks的な雰囲気にあまり馴染めなかった自分には、ダイレクトに響いたのは記憶しています。(実はOasisBlurなどを聞けるようになったのは、だいぶ後なので。)
そんなPlaceboが9年の沈黙を破り、ニューアルバム『Never Let Me Go』を来年3月にリリースするとアナウンスしました。
いてもたってもいられず、このような記事をしたためましたので、お付き合いください。




Placeboとは

ベルギー出身のBrian Molko(ヴォーカル/ギター)とスウェーデン出身のStefan Olsdal(ベース)による2人組です。
5作目"Meds"まではドラムにSteve Hewitt、6作目"Battle For The Sun"7作目"Loud Like Love"ではSteve Forrestがドラマーの3人組でした。



ブリットポップ全盛期の90年代イギリスにおいて、エッジの立ったグラムロックグランジをミックスしたようなダークで美しいギターロックは、非常に特異な存在感を放っています。当時主流だったブリットポップとは趣を異にしていました。そのせいか、本邦ではどうも影の薄い彼ら。
本邦の主要音楽雑誌の表紙を飾ることもまずないですからね。
本国イギリスではかなり人気で、来日公演では「ステージとの距離が近い」という理由で追っかけてくるファンがいるほど。また、新しいもの好きのDavid Bowieからもラブコールを受け、「新時代のグラムロック」と称賛され、ステージを共にしていたこともありますね。
Placeboといえば、Brian Molkoがバイセクシャルを、Stefan Olsdalが同性愛を早々にカミングアウトしていたこともあり、どうにも色眼鏡で見られていて、音楽的な評価が後に続いているようにも見受けられます。
また、タブー視されやすいパーソナリティやドラッグに関する歌詞などで危険視され、かつては「イギリス一汚いロック」というような呼ばれ方をしていました。
確かにBrian Molkoの中性的なヴィジュアルやゴス・ロック風のメイク、耽美なメロディー、独特の癖を持つヴォーカルといった特徴は彼らのキャラクターを音楽的バックボーン抜きに固定するほどには強烈です。
ですが、「プラシーボ・チューニング」と呼ばれるほど独特なギターから放たれるシンプルなリフや、その時代時代に沿った音を組み込むことで音楽的な実験を繰り返し、バンドをアップデートし続けています。パンクが下地にあることは想像できますが、どことなく暗さを帯びたメランコリーは、Placeboならではのもの。内省的な美しさというよりは、どこか堕落した危険な香りがつきまとうような退廃的なもの。このタイプのメロディーラインを駆使するバンドはいそうでなかなかいません。
強いて言うのであれば、日本のヴィジュアル系ロックに通じる暗さがあります。David BowieT-Rexら王道のグラムロックとも微妙に異なるんですよね。
また、USオルタナティヴにも相通じるソリッドなロックのダイナミズムは、あくまでギター✕ベース✕ドラムのオーソドックスなフォーマットを崩しません。そのため、Placeboのブランドイメージを変えることなく徐々に自らの世界観を刷新しています。そういった彼らの姿勢もあって、デビュー時より25年を経た現在でも熱狂的な支持を集めています。
そんな彼らが先日、大々的なツアーとニューアルバムをアナウンスしたことで大変に話題を集めています。


では、彼らの歩みとなる作品を振り返りながら、来る新譜を待ちましょう。



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Placebo/1996
中性的な美貌、中性的な声、ミステリアスな佇まいからは想像しづらい凶暴なアンセム“Nancy Boy”が収録された第一作目。当時のイギリスと言えばOasisBlurRadioheadらが幅を利かせていたのもあり、非常に特異な存在感を持っている。今作は1stならではの初期衝動に溢れており、非常にハードでパンキッシュだが、後年の彼らに繋がる耽美なメロディーの美しさや静けさもしっかりと存在している。Molkoのやや幼い声も狂気を内包しているよう。性急でソリッドな“36 Degree”や穏やかさと儚さを強調したヘヴィな“Lady of The Flower”は、危うさと美しさを孕んだPlaceboの世界観を凝縮した萌芽だ。



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Without You I'm Nothing/1998
鈍く重苦しい“Pure Morning”で幕を上げ、前作とは打って変わって疾走感を抑えた2作目。今作のスタイルが現在の彼らの確固たるヴィジョンとなった。ミドルテンポではあるがノイジーに軋むギミックがそこかしこに存在し、ある種の聴きづらさを聴く者に与える。ソリッドで闇雲に駆け抜ける“Brick Shithouse”は“Nancy Boy”を振り切るようでもある。前作でブリットポップのアンチテーゼ的な立ち位置を確立していたが、“Ask For Answers”の人懐っこい歌メロには確かにブリットポップの時代を生きていた肌感覚を感じられるだろう。触れれば壊れそうな繊細で美しいバラード“Burger Queen”は名曲。



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Black Market Music/2000
内省的な前作とは異なり、インダストリアルやエレクトロの要素を大胆に取り入れた3作目。目も覚めるようなビートとアブストラクトな音処理を施した“Taste In Men”は、セクシャルでスキャンダラスなイメージがつきつつあった当時のPlaceboを見事に体現している。今作は今ひとつ存在感が薄いようだが、現在でもよく演奏される“Special K”のキャッチーなポップソングぶりや、ノイジーで凶暴なギターが唸る“Haemoglobin”のソングライティングには、安定期に入ったことを伺わせる。反面、“Peeping Tom”で聴けるような、微睡むように死に絶えるような危険な陰鬱さとドラッギーで耽美な美しさは今作が随一だ。



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Sleeping With Ghosts/2003
前3作を1つに整理したような印象を与える4作目。暴れ狂うインスト“Bulletproof Cupid”の獰猛さに戸惑いと歓喜を覚えたファンも多いだろう。巨大になっていくバンドに反して、彼らの核は恐ろしいほどにぶれていない。ノイジーさとポップを共存した“English Summer Rain”や、シンプルな疾走感とアンセミックなコーラスが爽快な“The Bitter End”、物憂げに歌うギターが浮遊するような“Special Needs”など、Placeboらしい耽美でメロディアスな楽曲が箔押しされたアルバムだ。充実した作品だが、徐々に行き詰まる閉塞的な暗さも持っており、次作に繋がる苦悶を感じさせる。



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Meds/2006
The KillsAlison Mosshartとのデュエットでジャンクな雰囲気漂う表題曲“Meds”が鮮烈な5作目。スキンにしたBrian Molkoも衝撃的だった。アルバム全体は苦痛と閉塞に満ちており、頭痛を誘発するようなノイズがギミック的に仕込まれている。ダウナーなビートと力強いコーラスで気怠く聴かせる“Infra-Red”、鬱々としたメロディーとヘヴィに引きずるグルーヴが印象的な“Post-Blue”には、メランコリックを通り越してデプレッシヴな空気が広がっている。R.E.M.のMichael Stipeが参加した“Broken Promise”の刹那的な切迫感や、これで幕を引いてもおかしくない今際の際のような美しさを漂わせる“Song To Say Goodbye”も悲壮感に拍車をかけている。



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Battle For The Sun/2009
新たにSteve Forestをドラマーに迎えた6作目。前作に閉塞的な感情を抱いていたのは間違いないようで、今作は打って変わって溌剌としたドラムが際立つ作品になった。“Ashtray Heart”のポジティヴなコーラスや、柔らかいフレージングで煌めくような美しい“Bright Lights”がその証左だ。だからと言って持ち前のノイジーな重厚さを忘れていないのは、“Battle For The Sun”や別れた相手に心情を吐露する“Happy You're Gone”を聴けばわかるだろう。Brian Molko曰く、今作は「久しぶりに楽しさを思い出せた作品」だそうで、それも伺えるキャッチーな作品だ。



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Loud Like Love/2013
前作に続き、メロディアスで明るめの作品に仕上がった7作目。これまで以上にBrian Molkoの伸びやかな歌を主軸にした作品だ。だが前作よりも従来のPlaceboに戻っているようで、鬱々とした雰囲気が漂っている。ピアノの美麗さが際立つ“Two Many Friend”や、わかりやすく泣きのギターメロディーを配置した“A Million Little Pieces”といったスロウなバラードが印象に残る。シンプルなリフの疾走曲“Rob The Bank”やグラマラスにギラつくシンセサイザーを目立たせた“Purify”といったポップに弾ける曲も用意されているが、今作においてはそれらの曲は主役ではない。あくまでPlaceboの美メロをミドルテンポで優しく聴かせるような作品であり、デビュー作とはほぼ真逆の作品になっているのが興味深い。



約25年という長いキャリアの中では取り立てて作品数が多いわけではないので、辿りやすいかと思います。
ちなみにBrian Molkoのギターテクニックなどは、エレキギター博士さんのこちらのエントリーが非常に面白かったです。
guitar-hakase.com



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