むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Borgne / Y

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Borgne / Y



スイスのインダストリアルブラックメタルバンドによる9作目フルレングス。


90年代から活動しているバンドで、インダストリアル的な無機質な音作りとプリミティブブラックあるいはディプレッシヴブラックを交配させた音楽性です。
PureのBornyhake氏が中心人物であり、バンドの全てを掌握しているので実質彼のプロジェクトと言っても差し支えありません。
Pureとはギターの密度が少し異なっていて、あちらほど暴虐性を全面に押し出しているわけではなく、もう一人のメンバーでもあるLady Kaos氏のキーボードの妖艶な美しさでアンビエントの浮遊感と廃工場的な不気味さや恐怖感が作品全体を覆い尽くしているのは、邪悪さが隠そうともしない禍々しいオープナーM-1“As Far as My Eyes Can See”から存分に充満しています。
光も差さない無明の闇を漂い千々に引き裂かれるようなM-2“Je deviens mon propre abysse”、拷問具が軋むようなノイズに暗黒風味の強いトレモロが炸裂するM-3“A Hypnotizing, Perpetual Movement That Buries Me in Silence”と、序盤でもう色々気を削がれていくのは仕様です。
しっとりと叙情的に聴かせるギターに不穏なノイズがまとわりつき殺意をぶちまける威圧的な重厚さが癖になるM-4“Derrière les yeux de la création”、一転緩やかな疾走と暗くひずんだトレモロが邪悪で大仰なM-5“Qui serais-je si je ne le tentais pas?”の中盤では比較的美しさを重視したメロディーが張り巡らされています。
乾いたEBMに砂嵐のようなノイズを被せて淡々と密室的なインダストリアルを聴かせるM-6“Paraclesium”を経て約17分の真空空間に放り込むおぞましい邪神の眼前に晒されるかのようなM-7“A Voice in the Land of Stars”の終盤の情け容赦のない展開にSAN値がゴリゴリに削られるでしょう。
ブラックメタルを好んで聴かれる方にもなかなか薦めづらい作風なのですが、意外とメロディー使いだったり展開だったりは、インダストリアル好きな方には聴きやすい作品だと思います。
Burzumの獄中期の作品の危険な暗さに、より攻撃的かつ機械的な増強を施している印象。
ちなみにLPにしろCDにしろピクチャーレーベルのデザインがなかなか笑いを誘ってくるので是非とも盤を手にしてほしいですね。



1. As Far as My Eyes Can See
2. Je deviens mon propre abysse
3. A Hypnotizing, Perpetual Movement That Buries Me in Silence
4. Derrière les yeux de la création ★
5. Qui serais-je si je ne le tentais pas?
6. Paraclesium
7. A Voice in the Land of Stars
(2020/Les Acteurs de l'Ombre Productions)
Time/65:39