むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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清春 / JAPANESE MENU/DISTORTION 10

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清春 / JAPANESE MENU/DISTORTION 10


日本のシンガー/ソングライターによる10作目フルレングス。



前作“夜、カルメンの詩集”が彼流のフラメンコをロックに落とし込み清春というフィルターを通して吐き出す匠の業を見せていました。
10作目というメモリアルアルバムとなる今作では、ある意味彼の起点に立ち返ったと言っても過言ではないギターと歌を中心に据えたロックアルバムに仕立てています。
中でも驚きだったのが、“低音のオミット”という、ある意味彼のトレードマークとも言える、ベースへの執着を切り離した作風であるということ。
元々“清春”という表現の基盤はもう30年近く昔には出来上がっているので、その円熟味をより感じさせるのが、声とメロディーの純化
張りつめた静寂に凛として妖艶なVoがストリングスと共に木霊するM-1“Survive Of Vision”の華やかさが全面に押し出されているのではと思わせて、実のところオープニングにして最もアルバムの作風から距離を置いているのが面白いところ。
乾いていてラウドなギターが怠惰に掻き鳴らされる退廃的なロックンロールに仕上がっているM-2“下劣”こそが、ある意味今作の幕開けに近いです。
“少年”や“Emily”を彷彿とする清春らしい仄かに切ないざらついたメロディーが唸るM-3“アウトサイダー”、フラメンコのようなリズムパターンにファンクを感じるギターが雄弁に語るM-4“グレージュ”、色気が立ち上るギターに切ないハイトーンが激しく響くM-5“錯覚リフレイン”、ざらついたギターが退廃的なメロディーを鳴らして巻き舌混じりのVoで叫び歌われるM-6“陵辱”の流れに、ラウドロックではないロックンロールとしての真髄に辿り着いているような感覚に陥れるはず。
夢見心地なギターの残響に静かにパーカッションが鳴るM-7“洗礼”、澱みないギターメロディーの奔流に鈍く太鼓が腹に溜まるM-8“嘘と愚か”、詩的に響くギターと呼応する美しい歌が軽やかに疾走するM-9“夢追い”、本編を締め括る官能的なストロークと物憂げな声が郷愁を呼び起こすM-10“ロマンティック”、往年の名曲を現在の清春のモードで仕立て直したM-11“忘却の空”と、意外に彼のキャリアでここまでシンプルにギターロックにフォーカスした作品はなかったな、と気付かされました。
黒夢Sadsも役割を終え、前作で探求した“ギターと声の魔力”を改めて混じり気なしにロックのフォーマットに落とし込んだ印象を受けました。
そのため、今作はおそらく彼の中のバンドの象徴たる“ベース”を意識的に省いていて、それは清春のシンガーとしての矜持の表明なのかな、と。
彼のライフワークの一つになっている“リズムレス”の表現とはまた指向性が異なる、非常にパーカッションのアタックが効いているので。
彼の携わった多くの作品群の中でも、いい意味で力の抜けた最高峰に近い位置付けにある傑作です。
やまなみ工房による生々しく生命の力強さに満ちたアートワークも、生々しいロックンロールの表現に大変合った迫力で、素晴らしいですね。
この作品は、一人のロックシンガーの生き様と言っていいと思います。
とうとうこの境地のロックアルバムに到達したんだな、とファンとして感慨深くなりました。


1. Survive Of Vision
2. 下劣
3. アウトサイダー
4. グレージュ
5. 錯覚リフレイン
6. 陵辱
7. 洗礼
8. 嘘と愚か ★
9. 夢追い
10. ロマンティック
11. 忘却の空
(2020/ポニーキャニオン
Time/44:19



【清春】「グレージュ」【MV】歌詞付き from『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』

Score:10/10