むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Igorrr / Spirituality and Distortion

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Igorrr / Spirituality and Distortion


フランスの作曲家による4作目フルレングス。



凄まじいカオスの奔流に仕上がりました。
ブラックメタルデスメタルをルーツに持ち、Aphex TwinSquarepusherのようなテクノ/エレクトロやクラシックやオペラから吸い上げた形容し難い音楽性が、Gautier SerreことIgorrrのスタイル。
その配合バランスのカオスは作品を重ねるごとに過激になり、本作で一種の極点を迎えています。
最たるものは強烈なブレイクビーツに重たいギターを合わせるM-3“Very Noise”であり、凶悪なメタルサウンドドラムンベースを配合することに成功しています。
オープナーであるM-1“Downgrade Desert”からしシタールのような音にドラマティックなギターが乱舞して期待感を持たせ、優美なストリングスが退廃的な空気を作り出すM-2“Nervous Waltz”、シンセに歪んだベースが絡まりエキゾチックな歌唱が巻き舌染みて木霊するM-4“Hollow Tree”、ベリーダンスを踊らせるようなメロディーに痙攣するようなビートが独特なM-5“Camel Dancefloor”に差し掛かる頃には、彼の産み出す混沌に呑まれているはず。
細切れにされるデスメタルの異様さに固唾を呑むCannibal Corpseのジョージ・フィッシャーが客演するM-6“Parpaing”、悪ふざけ極まりないアコーディオンが気味の悪いパーティーソングM-7“Musette Maximum”、儀式的なメロディーをギチギチに締め上げた音圧でぶちかましてから霊的な静寂を湛えるM-8“Himalaya Massive Ritual”を総括するアンビエントから巧妙に切り刻まれる新時代のスラッシュ的な味わいもあるM-9“Lost In Introspection”、琴の調べが雅に舞うような劇的な美しさとおぞましい暴力を混ぜたM-10“Overweight Poesy”に至るまで、虚脱を覚えるほどのカオス。
神経に障るドラムンがぐしゃぐしゃに転がって半狂乱になっていくM-11“Paranoid Bulldozer Italiano”、物悲しいヴァイオリンと強靭なリフが蜜月を果たすM-12“Barocco Satani”、シンプルなリフが厚みを増して伸びやかなコーラスが静けさを演出するM-13“Polyphonic Rust”、男女のデュエットでしっとり終えるかと思えば飛び道具のような演奏が最後まで堪能できるM-14“Kung-Fu Chevre”と濃密な世界が敷き詰められています。
異次元のテクノ/エレクトロとしても聴けますが、メタルとしての骨格がしっかり息づいており、強度も十分保持されているので、変わり種のメタルアルバムとしても楽しめる一枚です。
自由な発想で作り上げられたカオスはなかなか中毒性がある傑作ですよ。


1. Downgrade Desert
2. Nervous Waltz
3. Very Noise
4. Hollow Tree
5. Camel Dancefloor
6. Parpaing
7. Musette Maximum
8. Himalaya Massive Ritual
9. Lost In Introspection
10. Overweight Poesy ★
11. Paranoid Bulldozer Italiano
12. Barocco Satani
13. Polyphonic Rust
14. Kung-Fu Chevre
(2020/Metal Blade)
Time/55:30

Score:9.7/10


IGORRR - VERY NOISE