むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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sukekiyo / INFINITUM

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sukekiyo / INFINITUM


日本のプログレッシヴ/オルタナティヴロックバンドによる2作目音源映像集(アルバムとしては3作目フルレングス)。


前作“ADORATIO”が個人的に大傑作で、それはもう狂ったように聴いていたわけで。
その後に来る作品がどうなるかは全く読めなくて、蓋を開ければ今作は前作の延長線上。
全体の骨格は前作の流れを汲んでいますが、曲の触れ幅は恐ろしいほど振り切っています。
ダークで浮遊感のある音作りはEDM/EBM/インダストリアル/ブリストルサウンドを吸い上げた形であり、メンバーであるutA氏の在籍していた9Goats Black Outを思い出しました。
ですがsukekiyoというバンドの変態性がこれでもかと張り巡らされ、京氏のいつにも増して気の触れたようなVoの効果もあって前作以上に倒錯しています。
その触れ幅の最たるものはM-2“猥雑”M-5“dorothy”です。
前者はEDMのノリにオルタナティヴロックやニューメタルを折衷したある意味今時の空気感のある曲で、後者は90'sのJ-Pop、もっと言えば小室哲哉サウンドへの敬意を感じ取れるもの。
おぞましく頽廃的なメロディーに四つ打ちを合わせて呪術的な雰囲気で聴かせるM-1“偶像モラトリアム”、儀式的なテクノポップからインダストリアルやドラムンベースを通過してメタリックなギターソロを鳴らす忙しない展開が癖になるM-3“沙羅螺”、sukekiyoらしい美しく暗いメロディーが銀盤から溢れるM-4“kisses”から繋がるM-5“dorothy”が非常にスムージーで聴きやすいのがまず耳を引きます。
機械的なビートに耳を引っ掻くようなギターが淡々と流れていくM-6“アナタヨリウエ”、情念を感じるギターとVoが官能的に絡み合うM-7“君は剥き出し”、歯切れのいいアタック感がどんどん狂暴性を増すインダストリアルM-8“本能お断り”で、フレキシブルなメンバーを擁するバンドらしい打ち込み要素を全面に押し出してきて、さらに歪になっているのがわかります。
攪拌していくようなメロディアスなパートから一気に暴虐的な暴走を挟むM-9“こうも違うモノなのか、要するに”で見せるアグレッションから急激に落とす浮遊感たっぷりなミドルバラードM-10“濡羽色”、感動的なコーラスパートと美しすぎる銀盤が涙腺を刺激するM-11“ただ、まだ、私。”の落差は非常に狡いわけですよ。
エンドロール的に仄かな明るさを聴かせるM-12“憂染”で一息吐かせたと思えば、狂った女の独白を不穏に聴かせるM-13“漂白フレーバー”で〆る辺り、作品自体が1人の女の物語とでも言える構成に仕上がっています。
ちなみにミキシングはTue Madsen。ゴージャスながらも彼ら特有の繊細さと妖しさを損なわない音像に仕上げられており、さすがの仕事ぶり。
前作ではsukekiyoの変態性が存分に開花していましたが、今作はそこに明確な作家性が刻印された、今作も紛れもない大傑作だと言えます。
聴きやすいが故に曲の持つ毒気や退廃感にズブズブと侵食されていく感覚を味わえる作品ですね。


1. 偶像モラトリアム
2. 猥雑
3. 沙羅螺 ★
4. kisses
5. dorothy
6. アナタヨリウエ
7. 君は剥き出し
8. 本能お断り
9. こうも違うモノなのか、要するに
10. 濡羽色
11. ただ、まだ、私。
12. 憂染
13. 漂白フレーバー
(2019/Sun-krad,Penyunne Zemeckis)
Time/60:56
※Disc2,Blu-rayについては割愛