むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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ドレスコーズ / ジャズ

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ドレスコーズ / ジャズ


日本のシンガー/ソングライターによる6作目フルレングス。


元は4人編成のバンドでしたが、志磨遼平(Vo)を残して全員脱退してしまったがため、現在はソロアクトとして活動しているドレスコーズ
毛皮のマリーズは好きで、ドレスコーズは一人になってからは随分聴いていなかったのですが、今作で久しぶりに聴いてみたら、まあとんでもない化け物を作ったな、と。
今作は毛皮のマリーズ後期の“ティン・パン・アレイ”でもやったコンセプチュアルなもので、“緩やかに滅んでいく人類が最後に聴くであろう音楽”をコンセプトにしたもの。
最近志磨遼平が傾倒しているらしいジプシーのロマという民族音楽をベースにしており、表題から想像するジャズアルバムではありません。
とは言え、そのものになるわけでもなく、彼自身に染み付いている昭和歌謡、70'sパンクやロックンロール、研究熱心な彼らしい90'sブリストルサウンド~USオルタナティブ、最近のトラップといった要素まで溶け込んでいます。
牧歌的とすら言える儚いメロディーにまるで老人のような歌が乗るM-1“でっどえんど”に漂う空気からして、それこそ黎明期のジャズのようなどこか破滅的な喧騒が漂っているのが面白い。
柔らかなアンビエントなシンセに導かれて福音を鳴らすM-2“ニューエラ”、軽やかにスウィングする大衆音楽の質感と程好く退廃的な空気を滲ませたM-3“エリ・エリ・レマ・サバクタニ”、四つ打ちのビートに管楽器やサブベースが絡みつき妖しく踊らせるM-4“チルってる”の流れの異様な生々しさとどこか空々しい空気感が今作の最初の旨味かな、と。
ちなみにM-3“エリ・エリ・レマ・サバクタニ”とは造語ではなく、マタイの福音書にあるキリストの嘆きの言葉で、「わが神、わが神、何故私を見捨てたのだ」という意味です。
ロマから強烈な影響を受けた寂しげなアコーディオンがロックンロールのビートに乗るM-5“カーゴカルト”からより今作の哀愁が浮き彫りになってきます。
すっとんきょうな管楽器とマーチングが暗くもユーモラスに鳴るインストM-6“銃・病原菌・鉄”を引き継ぐように全てが滅んでいく様を俯瞰したM-7“もろびとほろびて”でトラップとグループサウンズを織り混ぜたような柔軟さは志磨遼平の真骨頂かな、と。
寂しげな管楽器にピアノが優しく寄り添いながらもベースの不穏さが退廃を際立たせたM-8“わらの犬”、享楽を演出した躁的な明るさで疾走する作中最もパンキッシュなM-9“プロメテウスのばか”、朴訥としたマーチングでそっと滅びへの背中を押すようなM-10“Bon Voyage”、アコーディオンの哀愁の美しさにこれまでにない優しい歌で寄り添うM-11“クレイドル・ソング”、触れれば壊れそうな音響で荒野で風化していくような質感が面白いエンドロールであるM-12“人間とジャズ”で、ゆっくりと沈んでいく終わり方が途方もなく美しい。
言うなれば、今作は文明が静かに閉じていく“ポスト・アポカリプス”を描いた作品ですが、そのジャンルによくある殺伐さはむしろ無縁であり、コンセプトからくる主張の強さも以前の彼のように暴力的なものとはむしろ真逆。
穏やかで優しく、むしろ達観しているというか諦観しているような雰囲気すらあります。そこに退廃を見出せます。
飽くなき情熱と貪欲さに裏打ちされた、彼自身の飢餓感もこれまで以上に刻印された大傑作です。
志磨遼平にとって、ジャズとはパンクやロックンロールと同義なんだろうなと思えます。
聴いているとブルースを感じられるのも、らしい作品ですね。


1. でっどえんど
2. ニューエラ
3. エリ・エリ・レマ・サバクタニ
4. チルってる
5. カーゴカルト
6. 銃・病原菌・鉄
7. もろびとほろびて
8. わらの犬
9. プロメテウスのばか
10. Bon Voyage
11. クレイドル・ソング
12. 人間とジャズ
(2019/キングレコード
Time/50:15