むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

「傑作!」を連発するレビューブログを目指しています。コメントは記事ページから書込・閲覧頂けます。

Nine Inch Nails / Bad Witch

f:id:bluecelosia:20180627233532j:plain
Nine Inch Nails / Bad Witch


USのオルタナティヴ/インダストリアル/ロックアクトによる9作目フルレングス。



当初はEP3作での三部作であり、それらをリリースしてから再編集して一枚のフルレングスにするという構想だったそうですが、思うところあって3作目をポシャり、作り直したのが今作“Bad Witch”だそう。
そのため、確かにEP2作と共通項は見出だしやすい音作りではあるのですが、往年のNIN的な音に回帰しています。
例えばM-3“Play The Goddamned Part”のサックスが官能的に絡み合う様はNINの中では新機軸ではありますが、音の重ね方やそもそものメロディーラインはNINらしかったりします。
また、“Year Zero”から“Hesitation Marks”まではそこかしこにPrinceフリークでもあるTrent Reznor流ファンクへの憧憬がリズムアプローチに表出していましたが、今作はかなり控え目で、よりパンクやロック寄り。
Reznor自身トランプ政権にはかなり思うところがあるようで、そのため攻撃的な音になっている模様。故に政治的だし、主張する音です。
さらに、2016年に急逝したDavid Bowieをかなり彷彿とさせる歌い回しだったりを多用しています。
NINに最も音の共通項のあった“Outside”“Earthling”辺りに遺作である“★”を塗した感覚を覚えます。それらの要素を“The Fragile”期に近い偏執的な音のセンスで構築したような印象ですね。
フルレングスながら6曲30分とコンパクトでありますが、アルバムの構成はかなり練られていて非常に起伏があります。
オープナーであるM-1“Shit Mirror”のノイジーでストレートなインダストリアルパンクや、ドラムンの忙しないリズムが切迫する攻撃的なM-2“Ahead Of Ourselves”で高揚感を煽り、前述のM-3“Play The Goddamned Part”の雄大なインストで往年のファンを新しくも郷愁的な空間へ引きずり込む。
David Bowieへの敬愛をかなりさらけ出した性急なのに揺らめくような甘い轟音に呑まれていくM-4“God Break Down The Door”、荒涼としたノイズが吹き荒れる不穏で重圧感のあるインストM-5“I'm Not From This World”、木琴のようなリズムに歪むノイズが絡みつくロマンティックでありつつ無常を感じさせるM-6“Over And Out”の流れは近年のNINでも最も“らしい”というか。
聴いていると、M-6からM-1に戻ると流れがすんなり嵌まっているのでリピートしやすいのも今作の特徴。
長い作品ではないので、聴き終えても飢餓感がなくならないのはおそらく狙いなのだと思いますが、もう2曲ほどあっても良かったかもとも思いますね。当初の目的通りEPから再構築した曲とか。
簡素に見えてその実案外情報量が多いのは、Deathspell Omegaの“The Synarchy Of Molden Bones”に通じるところがありますね。
NINは、私が最も好きなバンドですので点数はこうなりますが、実のところ「初めてNINを聴こうかな」という人には、今作は特にオススメしません。“The Fragile”と言いたいところですが、“The Downward Spiral”“With Teeth”“Hesitation Marks”辺りをオススメします。
ちなみに今作には黒い粉やアンプ?の説明書だったりは封入されていません。


1. Shit Mirror
2. Ahead Of Ourselves
3. Play The Goddamned Part ★
4. God Break Down The Door
5. I'm Not From This World
6. Over And Out
(2018/Null)
Time/30:16