むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Ad Hominem / Napalm For All

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Ad Hominem / Napalm For All


フランスのブラックメタルバンドによる6作目フルレングス。


フランスのブラックメタルと言えば、Deathspell Omegaが真っ先に出てくるかと思います。
あるいはQuintessence、あるいはAlcest辺り。
哲学的な、“ブラックメタルとは何ぞや”と問いかけ宗教的で暗黒的なブラックメタルを確立させたのはDsO周辺のフレンチブラック勢であると思っていますし、メロウなブラックを突き詰めるQuintessence周辺や、ポストブラック隆興の礎となったAlcestといった割とブラックメタルを拡張させるバンドがフランスには多いと思います。
このAd Hominemもその一つだと勝手に思っていて、彼らはいわゆるNSBMに属しています。
国粋主義的な主張を掲げるバンドが多いので危険思想とイメージされる上、Burzumの影響下にある劣悪な録音を施すバンドが多いので敷居は割と高いです。
そんな中、Ad HominemはNSBMでも非常に良好でクリアな録音で聴かせてくれます。
それはノイジーなSEを切り裂くトレモロが吹き荒れるM-1“AMSB”から象徴的。
ちなみにこの“AMSB”は核燃料に類する言葉だそうで、ハードコアに突っ走る2分に満たないM-4“Napalm For All”やM-8“Bomb The Earth”などから察するに、今作のモチーフは爆弾や戦争に類するもの。
それに伴い、Mardukを彷彿とさせるウォーブラック的な苛烈さが目立っています。
前作は疫病と宗教がテーマでした。
音楽的にも前作では暗黒的だったり儀式的なメロディーを配していたりしていましたが、今作では暗黒的なれど殺伐としたグルーヴで泥濘を作り出すM-2“I Am Love”やサザンロック的なざらついた感触のストーナーブラックM-5“Goatfucker”からもわかるように、非常に乾いた仕上がりになっていて、クリアな録音によく馴染んでいます。
思想的には既存宗教に痛烈に唾を吐いている表題も危険極まりないデスロール寄りのグルーヴが心地好いM-10“Vatican Gay”が強烈。
要所要所にストレートでハードコアな曲を挟むので、アルバムの構成的にも抜群にバランスがいいです。
汚泥グルーヴとスタスタ刻むビートの交錯が非常に巧く儀式的なヴァースも聴き応えあるM-3“Consecrate The Abomination”はそれを封じ込めた名曲です。
音楽的にも暗喩的というか神秘的に聴かせる曲も多かった前作と比較しても今作は直接ガツンとくる曲が多くて、非常に気に入りました。
フレンチブラックの懐深さを感じさせる素晴らしい一枚です。


1. AMSB
2. I Am Love
3. Consecrate The Abomination ★
4. Napalm For All
5. Goatfucker
6. V. Is The Low
7. Imperial Massacre
8. Bomb The Earth
9. You Are My Slut
10. Vatican Gay
11. Traces Of Sand
(2018/Osmose)
Time/43:14

Score:9.0/10


AD HOMINEM - AMSB