むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Silence Lies Fear / Shadows Of The Wasteland

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Silence Lies Fear / Shadows Of The Wasteland


アゼルバイジャンメロディックデスメタルバンドによる3作目フルレングス。



メロデス好きにそこそこ話題になった前作から大きく飛躍を遂げました。
骨格そのものは変わっておりませんが、仄かにテクニカルデス風の展開が多くなりました。
それに加えて、浮遊感のあるシンセ主体で奏でられるメロディーはより美しさを増しています。
そこが、前作と比較して最も垢抜けた箇所。
多彩なゲストも聴きどころで、Andy Gillion(Mors Principium Est)、Morgan Reid(Bloodshot Dawn)、Ryan Hansen(Light This City)らが曲を一層華やかにしています。
そして今作を特徴づける彼ら最大の特色は、どれだけ激しい演奏でも、どこか静的な要素が感じられるということ。
一ヵ所に止まらずコロコロとテンポを変えるドラムもそうですが、ドラマチックに盛り上げるトリプルリードも結構荒ぶっていてテクニカルデスのように立体的にリフを構築したり、エクストリームメタルの攻撃性は前作よりも上です。
それでも前作で掴んだファンを掴んで離さないのはシンセの作り出す美しい空間に他ならず、シンセの影響で非常に静かな印象を与えます。これはもはや個性ですね。
悲哀感たっぷりのメロディーで幕を上げる暴虐的なメロデスM-1“Hypernova”からそうで、シンセの奏でるアンビエント寄りのメロディーラインのおかげか、作品に統一感があります。
これは前作の時にも思いましたが、彼らの強み。
ハイライトは、苛烈なメロデスと客演のCarolina Alexandraの美声が蜜月を交わし優美かつ幽玄の世界を繰り広げるM-6“Gravity”です。
荒廃した街並みをリフとブラストの嵐が蹂躙するようなM-2“Aftermath”、柔らかい女性コーラスパートと単音リフが心地好く耳を嬲るメロデスパートが入り乱れるM-3“Shores Of Time”も全てM-6に収斂していくんですね。
日が沈む荒野の一瞬を捉えたようなシンセの美しさとそれに相反するような苛烈極まりない演奏が見事な対比を生むM-7“The Shadow Of I”、機関銃を思わせるドラムと暴走する機械のようなザクザクと刻むギターに絡みつく哀哭のシンセが耳を引くM-9“The Oblivion”、最後の一押しに激キャッチーなギターリフ推しで聴かせてくれるモダンなメロデスM-10“Undying Mind”で壮大に締めくくる構成力の高さには舌を巻きます。
映画音楽的に聴かせるデザイン力と、それをしっかり聴かせる演奏力の高さが見事に溶け合う作品です。
要は「メタルは演奏力がないと話にならん!」という人も「いやいや技術ひけらかすだけじゃ聴かせる作品じゃないよ」という人もどちらも唸らせる稀有な傑作です。
弱点は、あまりに統一性に長けているため、これぞというキラー曲が見当たらない点ですかね。些細な問題ですが。
今年のベスト候補に上がる作品であることは確かなので、メロデス好きさんは聴き逃さない方がいいですよ。


1. Hypernova
2. Aftermath
3. Shores Of Time
4. Artificial Engine
5. The Last Human
6. Gravity
7. The Shadow Of I
8. Sun As A Gift
9. The Oblivion
10. Undying Mind ★
(2018/Soundage Production)
Time/42:28