むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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Ryan Power / They Sells Doomsday

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Ryan Power / They Sells Doomsday


USのSSWによる3作目フルレングス。


昨年Bandcampでひっそりとリリースされていて、今年に入って聴きました。
聴くのが遅れたことに後悔しました。
彼の作品は何年か前に聴いたことはあるのですが、立体的なシンセポップをやる人だなと思った記憶があります。
この新作でもそれは変わらず、押し引きが以前よりも増した印象で、よりポップとして優れたものになっています。
いやむしろ、今作凄いアルバムです。
全体的には弾き語り的な小曲M-1“Editor In Chief”からはじまるように、“静”の作品です。
ですが、静かな中に異様なまでの音の作り込みによって曲の中で表情を変え続けます。
R&B、ヒップホップ、ジャズ、シンセポップを絶妙な配合で混ぜ合わせた上でネオアコにも通じる憂いのあるメロディーを散りばめたと言えばいいでしょうか。
さらにトロピカルなチル要素も芳醇です。
従来の立体的なリズムアプローチはますます冴え渡っており、穏やかなのに奇妙にねじくれまくっているんです。
思い出したのがBeckWilcoで、音の質感や変に狂気染みたポップネスといった部分は、かなり通じるところがあると思います。
軽快かつなだらかに紡がれるネオアコみたいなM-2“The Cavalry”、J Dillaを彷彿とさせる黒いビートにソウルフルなVoを合わせるRobert GlasperのようでもあるM-3“They Sells Doomsday”、80sにトリップしたようなシンセポップ+R&BのM-4“In A Tizzy”、サックスの艶かしい音色と丁寧に織り上げられたメロディーの共演が麗しくもヒップホップの要素が歪にもガッチリ填まり込んだM-5“Pilot To Moth”と前半だけでも珠玉の出来。
後半にいけばいくほどより雑多な側面をさらけ出していくのですが、M-7“Give It A Rest”で聴けるようなやけに耳にこびりつくメロディーや、電化したロカビリーのようなM-10“Yer Not Doin' What You Should”の演劇的な歌唱といった聞き所に酔いしれるはず。
躍動感たっぷりな太いビートがクールなM-11“Lovely,Lovely,Lovely”やM-13“Lazy About Love”のどがつくほどにポップな曲を後半に仕込むのは非常にズルい構成ですよ。
聴けば聴くほど精緻に編み込まれたギミックに息を呑める作品であり、過去と未来を繋ぐような作風は奇妙に入り組んだ複雑なものなのに普遍的とすら言える大傑作です。


1. Editor In Chief
2. The Cavalry
3. They Sells Doomsday
4. In A Tizzy
5. Pilot To Moth ★
6. Don't Mention It
7. Give It A Rest
8. Issues
9. Empty The Jewel
10. Yer Not Doin' What You Should
11. Via Media
12. Lovely,Lovely,Lovely
13. Lone Wolf Cry
14. Lazy About Love
15. Wooly Minded
(2017/NNA Tapes)
Time/58:14

Score:10/10


Ryan Power - Via Media