むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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あいみょん / 瞬間的シックスセンス

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あいみょん / 瞬間的シックスセンス


日本のシンガーソングライターの2作目フルレングス。


昨年、平成最後のブレイクスルーを果たした女性シンガーと言えば彼女。
ブレイクのきっかけとなった“マリーゴールド”が収録されているのが今作となります。
彼女自身の毒気は前作“青春のエキサイトメント”にパッケージされていたので、今作がどういう作品になるのか個人的に期待していました。
蓋を開ければ、非常に完成度と純度の高いJ-POPの作品となっています。
どうしても今作の軸は前述のヒットシングルM-2“マリーゴールド”になるわけで、その影響もあってか、非常に聴きやすい、よりポピュラリティを意識した作品に仕上がりました。
毒気が減退したことで彼女の魅力がスポイルされたわけでもなく、昭和レトロな歌謡曲のような親しみやすいメロディーと今時のエッジの効いた音作りと文学的な言語感覚が、アイスクリームと恋愛関係をかけてあっけらかんと官能的な歌を聴かせるM-1“満月の夜なら”から聴けます。
爽やかな残響が耳に残るメロディーとマーチングに合わせてしみったれた男の独白を歌うM-3“ら、のはなし”、ゆったりとしたシティポップの上でお経みたいな歌で逃避を歌うM-4“二人だけの国”、神の視点で世の真理を弾けるようなポップソングに仕立てたM-5“プレゼント”と、より戦う場所を大きく定めたような明るさがあります。
儚く美しいメロディーに自分のなりたいものや後悔をそれとなく忍ばせたバラードM-6“ひかりもの”やシンプルな弾き語りで恋心を歌うM-7“恋をしたから”の流れは、路上出身の強みを活かした曲であり、作中最もパンキッシュなM-8“夢追いベンガル”にしなやかな彼女の歌心を感じ取れるはず。
後半のハイライトは間違いなく、“マリーゴールド”と並ぶヒットシングルであるM-9“今夜このまま”であり、この曲のドラムトラックとギターのアタックの強さは非常に楽しい。
M-10“あした世界が終わるとしても”のぶっきらぼうな歌からの異様にキャッチーなコーラスや、小気味いいリズムと歯切れのいい歌がどこかグループサウンズのように聞こえるM-11“GOOD NIGHT BABY”、お行儀良いアルバムの流れをぶち壊すような〆のひずんだM-12“from 四階の角部屋”と割と隙のない作品です。
それでもやはり、今作の主役はどうしてもM-2“マリーゴールド”であり、メロディーラインや構成力、音の細やかさ、歌詞の男性的でありながら強烈に女性的な節回しと広く愛される名曲だなと。
前作のある種乱雑な、あるいはインディーズっぽさが好きな人には受けないかも知れませんが、今作が今年の代表作の一つに数えられることを疑う人はいないでしょう。
前作収録な“生きていたんだよな”や人気曲“貴方解剖純愛歌~死ね~”のような曲はあのタイミングだからこそ輝いて意味のあるものだと思うので、個人的には今後そういうものよりは今作のような普遍的な世界観を磨き抜いていってほしいですね。


1. 満月の夜なら
2. マリーゴールド
3. ら、のはなし
4. 二人だけの国
5. プレゼント
6. ひかりもの
7. 恋をしたから
8. 夢追いベンガル
9. 今夜このまま
10. あした世界が終わるとしても
11. GOOD NIGHT BABY
12. from 四階の角部屋
(2019/Warner Music
Time/48:47