むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~

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DIR EN GREY / The Insulated World

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DIR EN GREY / The Insulated World


日本のロックバンドによる10作目フルレングス。


無限地獄だな、と思いました。
今作はこれまでのような抽象的で、捉えどころのない世界観ではありません。
特に歌詩は、名言されてはいませんけど、詩それだけを取り上げると最初から最後まで私小説のような明確なストーリーが浮かび上がります。
今作は、ある人間の、精神的な変遷を描いているのかも知れないと思います。
“俺さえ死ねばいい”と吐き捨て、両親に許しと断絶を懇願し、人を信じることを諦めようとして諦められず、死すら見据えたのに死ぬ勇気も出ず、そんな自分を赦してくれるわずかな人たちも傷つけながら、もがき苦しみ己を傷つけ、それでも自己を赦せそうな糸口を見つける。
詩の流れはこんな形で進みますが、意図してかそうでないか、リピートすることで痛々しく刺々しいほどの音の塊が、“Ranunculus”の福音的な優しさと歓喜に包まれて幕を下ろすのに、“軽蔑と始まり”に戻る。
だからいつまで経っても完結しない、無限地獄のような世界だな、と。
それが故に外の世界と隔絶されているというか。
音楽的には今回非常に生々しいラフな印象が付きまといますが、その裏で情報量はかなり多いです。
M-1“軽蔑と始まり”から聴けるまさにハンマーで殴りかかってくるようなリフに反して鋭さのあるドラムが、音作りにおいては最大の肝。
さらに、中音域がふくよかになってドンシャリではないです。Tue MadsenやJens Bogrenのミックスはこういうハードコアな音の傾向とも違うので、作品的にはベストな選択なんだと思えます。
Dan Lancasterと聞いて納得。ベースのうねりやドラムのアタックの鋭さは確かに彼らしい。
M-5“詩踏み”のミックスが顕著で、シングル及びベスト版とグルーヴが全く違うのでそちらに馴れているとこのふくよかな中音推しに、篭っていると感じてしまうかも知れません。
けたたましいサイレンのようなリフが目まぐるしい速度と絶叫と共に駆け抜けるM-2“Devote My Life”、Djentを再解釈したような緻密なリフに反してヤケクソ気味に吐き捨て続けるM-3“人間を被る”は詩の流れから考えても完璧な構成だと思います。
電子音と原始的なリズムがのたうち回るリフと歌をぶん殴るようなM-4“Celebrate Empty Howls”、より這い回るようなグルーヴで隔絶された歌を響かせるM-5“詩踏み”、さらに畳み掛けるようなエレクトロにリズミカルなリフが乗り電化したハードコアの坩堝と化すM-6“Rubbish Heap”の地獄のような自己否定に合わせたような刺々しく理解を拒む激音の奔流。
ロディアスなギターが美しい残響を生むミドルバラードのようなM-7“赫”、高速化したニューメタルのようなグルーヴに様々な声色を使い分けるコーラスもやたらキャッチーなM-8“Values of Madness”、跳ねるリズムに再びDjentへ接近したブレイクダウンの嵐が聴けるM-9“Downfall”で、憎悪を超えて達観した諦めの境地に達し、美しくも澱んだメロディーで寄り添うようなM-10“Followers”で一握りの理解者へ歌う。
ただそれすら通過点であり、今作最大のヘヴィネスと不気味な電子の渦に諦念を沈ませ爆走も自然に織り混ぜたM-11“谿壑の欲”、作中唯一の長尺であり沼地に嵌まっていく絶望と諦めと憤怒を最後まで行き交うM-12“絶縁体”を経て浄化させるように生へしがみつく叫びを美しいメロディーに乗せて歌い上げるM-13“Ranunculus”へ到達するという流れがとにかく美しいです。
今作は従来のDIR EN GREYの作品、例えば“UROBOROS”“DUM SPIRO SPERO”にある難解さよりも取っつきやすさが確かにあるし、詩も直接的なのですが、聴き手に理解させることを拒むような響きが濃いです。
個人的には、Vo.京氏がライヴでよく「生きてるか」と煽る背景が透けて見える作品だな、と思いました。
今作の詩を指して「若い」という意見もありますが、そうは思いません。
年を経たからこその攻撃性というか、飢餓感や諦念や後悔が蓄積され続けた澱みを感じます。
人間誰しもが持つ負の感情が宙ぶらりになる感覚というか、“Ranunculus”に至るまで真っ暗な穴に放り込まれる不安定への恐怖というか。
私小説のようでいて、“お前もそう思ったことがあるだろ?”と突きつけられる恐怖があります。
音楽的に言えば、最近の自分のトレンドがKhmerのようなソリッドなハードコアだったので欲していた音そのものでしたし、ざっくりと隙だらけなのに隙がない感じも実にいい、みっしりしていない鋭さというか。
不思議なバランス感覚を持つ作品です。
現時点での自分には、彼らの作品で一番好きな作品ですし、大傑作だなと思います。
ですが、彼らを知らない人には“Withering to death.”“UROBOROS”をまずは薦めます。


ちなみに再録3曲はJens Bogren監修で、確かにこの音作りは本編には合わないなと思いました。
“鬼眼”はDan Lancasterの方が合ってたんじゃ?とも。
“理由”はJensらしい耽美さが出ていて良かったです。
ライヴ版はとにかく“Ash”の気迫が凄まじいです。
去年初めて彼らのライヴに行ってから今年も春夏両方行ったので、完全生産限定盤を買いました。



1. 軽蔑と始まり
2. Devote My Life
3. 人間を被る ★
4. Celebrate Empty Howls
5. 詩踏み
6. Rabbish Heap
7. 赫
8. Values of Madness
9. Downfall
10. Followers
11. 谿壑の欲
12. 絶縁体
13. Ranunculus


1. 鬼眼
2. THE DEEPER VILENESS ★
3. 理由
4. 腐海[live]
5. Ash[live]
6. Beautiful Dirt[live]
(2018/Firewall Div)
Time/50:27(Disc1) 27:05(Disc2)